「冤罪の深層 追跡・大川原化工機事件」石原大史著
「冤罪の深層 追跡・大川原化工機事件」石原大史著
2020年、横浜市の中小機械メーカー、大川原化工機の社長ら3人が逮捕・起訴された。同社の噴霧乾燥器が生物兵器の製造に転用可能であると判断され、中国への不正輸出を疑われた。まったく身に覚えのない3人は長期間勾留され、不当な取り調べを受けた。うち1人は勾留中に進行性のがんを発症、十分な治療を受けられないまま亡くなってしまう。ところがこの事件、警察、検察が捏造した冤罪事件だったことが判明する。前代未聞の権力犯罪が起きていたのだ。
この事件に早くから注目し、徹底検証したNHKスペシャル「“冤罪”の深層」シリーズは大きな反響を呼び、優れた調査報道として数々の賞を受賞した。本作の著者は、このシリーズを制作したNHKのディレクター。独自取材の一部始終をノンフィクション作品として書き下ろした。映像化されなかった事実、放映後に明らかになった新事実、警察の内部文書や音声データも活字化され、事件の闇に迫っている。
取材現場は張り詰めていた。取材に応じない当事者の行動ルートを下調べし、機会を待って声をかける。内部告発者と極秘に面会する際は、情報源を守るために細心の注意を払った。粘り強い取材から見えてきたのは、警察幹部の出世欲や組織への過剰な思い入れだった。捜査を疑問視する内部の反対意見に耳を貸さず、関係省庁である経産省に嘘をついてまで、事件化に走った。「中国に危ない機械を売っている会社」を摘発すれば自分たちの手柄になるからだ。背景には、国が打ち出した経済安全保障強化の大号令があった。中小企業の不正輸出案件は、いつのまにか経済安保の文脈に組み込まれ、大事件になっていった。
結局、警視庁公安部と東京地検の違法捜査が明らかとなり、異例の起訴取り下げとなった。しかし、事件についての警視庁の検証報告書は不十分、身内への処分は極めて甘かった。権力による冤罪事件は一応幕引きとなったものの、組織の体質は変わっていない。同じことが繰り返されはしないか。著者の危機感がひしひしと伝わってくる。 (幻冬舎 2090円)



















