イギリスの鼻息

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「イギリス1960年代」小関隆著

 G7議長国も務めて鼻息荒いジョンソン英首相。コロナ騒動を引きずりながらイギリスはどこへ行く?



 イギリスには乙にすました貴族的イメージの一方で、「スインギング・ロンドン」と呼ばれたけた外れにトンガったイメージもある。なにしろ女王陛下に捧げる「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」をパンクバンドが演奏するのだ。

 最近でも初の民間宇宙飛行を成功させたリチャード・ブランソンは、サッチャー政権時代の規制緩和で登場した起業家で一代貴族。そんなエッジの利いたイギリス文化の発信源となったのが1960年代初頭。時あたかもビートルズやローリング・ストーンズが登場し、マリー・クワントのミニスカートが世界中を席巻し、若者革命の最初の震源地となったのだ。

 イギリスとアイルランドの近現代史を専攻する社会学者の著者は、風俗や流行だけでなく、それらがイギリスの左翼運動とどんな関係を持ったかにまで注目。また60年代革命のセクシーな風潮が保守派の反対活動を刺激し、キリスト教原理主義と右翼思想がBBC放送を攻撃する動きなども押さえる。この動きがサッチャー登場の先駆けになったとも指摘している。

 著者は1960年生まれで、実は60年代の記憶はおぼろげらしい。

(中央公論新社 946円)

「イギリスの競馬サークル」ケイト・フォックス著 山本雅男訳

 競馬には一獲千金をねらって群がるハイエナもどきのギャンブラーの巣窟というイメージと、金持ちの馬主の道楽を着飾った富裕層が優雅に観賞する貴族の遊びという正反対のイメージがある。本書はイギリスで文化人類学を学んだ著者が、人類学的な人間観察の姿勢でイギリス競馬の社交界を活写した一冊。

 著者によればイギリスの競馬界は独特のムラ社会だという。富豪というだけでなく折り紙付きの名家の出が多く、馬遊びという究極の道楽をする。なにしろレース馬は自分で乗るなどもってのほか、腕の立つ調教師に委ねて戦ってもらう世界だ。

 その仕事は呪術師に似ているともいう。狭い世界で権勢を競うという点ではまったくの部族社会そのもの。そのタカビーな意識こそ「女王陛下の」イギリスならでは?

(小鳥遊書房 3080円)

「大英帝国2.0」宇津木愛子著

 キャメロン元首相も、メイ前首相も、そしてジョンソン現首相も、イギリスの歴代首相に占めるオックスフォード大卒業生の多さは抜群だという。特にその弁論部の存在感はきわだっているのだそうだ。本書はそんなこぼれ話を豊富につめこんだ、イギリスびいきのためのイギリス自慢。

 ジョンソン首相はイギリスがEU離脱をしても、世界中に英語を母語とする「アングロスフィア」と呼ばれる絆は不変だと胸を張った。著者もそれを誇らしく引用し、英帝国は近代史の初めから帝国が何度も装いを新たに生まれ変わることを予言していたという。「2・0」は最近のIT用語で「バージョン2」を表す言葉だが、それと同じことが帝国としてのイギリスにも当てはまると解説する。著者は長年慶大で英語の先生をつとめた人で、自身はケンブリッジ大の留学経験を持つ。

(鳥影社 1760円)

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