森沢明夫(作家)

公開日: 更新日:

10月×日 新連載の「ロールキャベツ」という小説を書いている。メインのキャラクターは、男女5人の大学生たちで、彼らは「チェアリング」というレジャーを愉しみつつ人生の苦難を乗り越え、成長し、各々の未来を切り拓いていく。「チェアリング」とは、アウトドアに椅子(チェアー)だけを持って出かけ、気に入った場所に椅子を置き、あとはのんびり好きなことをする、という「いちばん手軽なアウトドア」である。

 この「チェアリング」が素晴らしいのは、何といっても「思い込みひとつで、豊かな気分になれるところ」だ。例えば、美しい湖畔にヒョイと椅子を置くだけで、視界に入るすべてを「オレの庭」にしながら酒を飲むことができる。つまり、妄想力さえあれば、お金がなくても大富豪の気分を味わえてしまうのである。

 とまあ、そんな小説を書いている最中に、偶然にもお金にまつわる本が送られてきた。「奇跡のようにお金が流れこんでくる シンクロニシティ・マネーの法則」(KADOKAWA 1430円)

 著者は、ぼくも面識のある堀内恭隆さんである。

 いわゆる財テク系のノウハウ本かな、と思いつつページをめくると、これが意外にも「本質的な幸福論」だった。そもそも「富」とは何か。その「富」の生み出し方、増やし方、受け取り方、分配の仕方とは? といった内容が丁寧に書かれていて、ぼくはフムフム言いながら一気読み。

 とりわけ興味深かったのは、「世界の大金持ちたちが最終的に求めるモノは何か?」という問いかけにたいする答えである。ナント彼らが求めるのは「安心・安全」だというのだ。なるほど、たしかに彼らの家は高い塀と有刺鉄線に囲まれ、銃を持った見張りを付けていたりする。著者はその様子を「牢獄のよう」と書いていたけれど、言い得て妙だ。さらに著者は続ける。ぼくら日本人は生まれながらにしてその「安心・安全」という「富」を手にしているのだ、と。

 幸せは、なるものではなく気づくもの――。そんなことを考えながら、ぼくは連載の執筆に戻った。この作品も自分と誰かの「富」にしようと決意しつつ。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    山崎まさよし、新しい学校のリーダーズ…“公演ドタキャン”が続く背景に「世間の目」の変化

  2. 2

    ドラフト目玉投手・石垣元気はメジャーから好条件オファー届かず…第1希望は「日本ハム経由で米挑戦」

  3. 3

    高市自維政権で進む病人・弱者切り捨て…医療費削減ありき「病床11万床潰し」すでに3党合意の非情

  4. 4

    創価学会OB長井秀和氏が語る公明党 「政権離脱」のウラと学会芸能人チーム「芸術部」の今後

  5. 5

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  1. 6

    ソフトバンクに激震!メジャー再挑戦狙うFA有原航平を「巨人が獲得に乗り出す」の怪情報

  2. 7

    山崎まさよし公演ドタキャンで猛批判 それでもまだ“沢田研二の域”には達していない

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    米価暴落の兆し…すでに「コメ余り」シフトで今度こそ生産者にトドメ

  5. 10

    まだ無名の「アマNo.1サウスポー」評価爆上がり!23日ドラフト「外れ1位」なら大争奪戦も…