10月3日(月)連載スタート「合理的にありえない2 上水流涼子の究明」柚月裕子氏 直前インタビュー

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 映像化もされ大きな話題を呼んだ「孤狼の血」といった極道モノから法廷ミステリーまで、骨太の作品を次々と発表している作家・柚月裕子氏。そんな氏が手掛ける1カ月読み切り4話連作の痛快ミステリー「合理的にあり得ない2」の連載が来週月曜からスタートする。ファン待望の「合理的にあり得ない」の続編だ。

 物語は冒頭、主人公・上水流涼子と助手・貴山伸彦の不穏なやりとりから始まる。一見、カップルのケンカのようだが、彼らは上司と部下の関係である。一体、何をモメているかというと──、なんと給料であった。

「元弁護士の涼子と頭脳明晰なアシスタント・貴山に持ち込まれるさまざまな“あり得ない”依頼に挑んでいくミステリーです。前作『合理的にあり得ない』から5年ぶりの続編になるんですが、今作でも、もちろん涼子と貴山のコンビは健在。涼子が運営する探偵業『上水流エージェンシー』は殺しと傷害以外は報酬次第で何でも請け負うのがモットーで、涼子の知略と美貌、そしてIQ140の貴山の頭脳をもって、あり得ない方法で解決していく。本シリーズは、私が今まで発表してきた作品の中で一番エンターテインメント性が高い小説で、ある意味、形を変えた『必殺仕事人』ですね。姿形を変えながら、相手に迫っていきます」

 本シリーズは1話ごとに「~的にあり得ない」とタイトルがつけられており、本紙連載の第1話は「倫理的にあり得ない」。持ち込まれるのは、親権を取り戻したいという依頼だ。元看護師で45歳の香奈江が、75歳の元夫に取られた「16歳の一人息子の親権を──」と涼子に訴える。

「私を含め、多くの人は社会的な事件にかかわることってほとんどないですよね。なので、この小説では身近に起こりそうな問題を取り上げるようにしています。人が生きている中で警察や弁護士に解決してもらうこと、大きく表沙汰にできる問題って少ないものです。だからこそ思い悩むもので、そういう表舞台では出せないトラブルをスカッと解決できたらいいな、と。第1話で描くのは親権問題。離婚の際の争いごとのタネでありますし、片親親権だけでいいのかという議論もあります。親子の絆をテーマに『親子とは何をもって親子というのか』ということをさりげなく提示したいと思っています」

 涼子は策略によって弁護士資格を剥奪された過去を持つ。一方、今はアシスタントを務める貴山は、知らずとはいえその事件の片棒を担いでいた。その後、バディを組むようになったそんな2人の力関係は一目瞭然。涼子に従順だった貴山だが、今作では変化していくさまがおかしくも、読みどころのひとつにもなっている。

「涼子は美人で空手の黒帯を持っていて、貴山は東大卒で明晰な頭脳の持ち主。元は役者志望で、紅茶を入れるのがうまくてイケメンという男です。2人ともタイトルにちなんで、“あり得ない”キャラクターに設定していますが、最初の頃はもう少し人間っぽかったんですよ(笑)。貴山の存在感が大きくなってきていますが、書き始めた頃はこんな関係になっていくとは考えてもいなかったですね。筋が通らないことが嫌いで行動的な涼子と、沈着冷静な貴山との掛けあいもバディものの魅力だと思うので楽しんでもらいたいですね」

 続く2話は前作でも登場した、ザ・昭和のオヤジで刑事の丹波とその娘の物語。涼子と貴山が丹波のためにひと肌脱ぐ、人情物語を予定しているそうだ。残り2作は、きな臭い話を準備中、という。

「人生って理不尽であり不平等なもので、生まれたときから不平等は始まっているもの。それをどう自分と向き合って前に進んでいくかを描きたいといつも思ってるんです。物語の中では依頼者のそれを涼子が手助けするわけですが、きっと涼子は皆の中にいるのではないかと。人生の岐路に立ったとき、決着をつけて進んでいく。コロナ禍で窮屈な時間がまだまだ多いですが、せめて物語の中では涼子たちと自由に楽しんでもらいたいですね」

▽柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)1968年、岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。2013年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞、2016年に「孤狼の血」で第69回日本推理作家協会賞受賞。著書に「慈雨」「盤上の向日葵」など多数。

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