「トイレット博士」(全30巻)とりいかずよし作
「トイレット博士」(全30巻)とりいかずよし作
題名からして「トイレ」である。実にばかげている。中身はもっとばかだ。主人公の博士は人糞研究者である。その助手はうんこの我慢大会に出場して決勝まで進んだ男だ。ほかにホースが生きているバキュームカーを運転する男や、うんこを食べる少女も出てくる。
少年漫画で性表現のタブーを破っていった作品はあまたある。しかしこの作品はスカトロなのだ。初っぱなからうんこの話ばかりである。
天才・赤塚不二夫のアシスタントからは多くの若手漫画家が飛び出した。そのうち最も光り輝いた衛星がとりいかずよしであり「トイレット博士」である。
この作品にはタブーも何もない。そういったものをすべて吹っ飛ばして日本中のPTAを敵にまわした。PTAを激怒させた漫画の嚆矢がこの作品であった。しかし教師やパパママたちの漫画撲滅運動を物ともせず、週刊少年ジャンプの人気ランキング上位を突っ走る。PTAは小学生男子のばかさ加減が理解できず、とりいかずよしは知っていた。
俗に“箸が転んでもおかしい年頃”と言う。思春期の女子の純真さを表現した言葉だ。しかし小学生男子は“うんこの話が大好きな年頃”なのである。授業中でも放課(休み時間)でも誰かがうんこの話をすれば全員が爆笑し、連れションにいけば隣のやつの股間をのぞきこむ。結論を言おう。あえてステレオタイプに簡単にいえば「女子は可愛くて男子はばか」なのだ。
ところがこの「トイレット博士」、じつはただのスカトロではなかった。主人公たち少年は、小さくても男だ。血の結束を好み、肩を組んでくだらないことに一生懸命頑張ったりする。「メタクソ団」と名乗るグループを結成し、ばかなことを企てる。この作品は、後々まで、さらに現在まで続く週刊少年ジャンプの3大原則「友情・努力・勝利」が初めて前面に出された作品だった。
「マタンキ!」
少年たちはメタクソ団バッジを作り、それを警察手帳のように提示しながら挨拶する。マタンキというのはもちろん金玉の逆さ読みである。女性から見ればただのばか集団だ。
しかしそもそも大人の男社会がただのばか集団なのだ。それを喝破したのはインテリ層が書く評論ではなく、中卒の漫画家とりいかずよしのスカトロ漫画だった。
集英社 品切れ重版未定(Kindle版330円)