著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「トイレット博士」(全30巻)とりいかずよし作

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「トイレット博士」(全30巻)とりいかずよし作

 題名からして「トイレ」である。実にばかげている。中身はもっとばかだ。主人公の博士は人糞研究者である。その助手はうんこの我慢大会に出場して決勝まで進んだ男だ。ほかにホースが生きているバキュームカーを運転する男や、うんこを食べる少女も出てくる。

 少年漫画で性表現のタブーを破っていった作品はあまたある。しかしこの作品はスカトロなのだ。初っぱなからうんこの話ばかりである。

 天才・赤塚不二夫のアシスタントからは多くの若手漫画家が飛び出した。そのうち最も光り輝いた衛星がとりいかずよしであり「トイレット博士」である。

 この作品にはタブーも何もない。そういったものをすべて吹っ飛ばして日本中のPTAを敵にまわした。PTAを激怒させた漫画の嚆矢がこの作品であった。しかし教師やパパママたちの漫画撲滅運動を物ともせず、週刊少年ジャンプの人気ランキング上位を突っ走る。PTAは小学生男子のばかさ加減が理解できず、とりいかずよしは知っていた。

 俗に“箸が転んでもおかしい年頃”と言う。思春期の女子の純真さを表現した言葉だ。しかし小学生男子は“うんこの話が大好きな年頃”なのである。授業中でも放課(休み時間)でも誰かがうんこの話をすれば全員が爆笑し、連れションにいけば隣のやつの股間をのぞきこむ。結論を言おう。あえてステレオタイプに簡単にいえば「女子は可愛くて男子はばか」なのだ。

 ところがこの「トイレット博士」、じつはただのスカトロではなかった。主人公たち少年は、小さくても男だ。血の結束を好み、肩を組んでくだらないことに一生懸命頑張ったりする。「メタクソ団」と名乗るグループを結成し、ばかなことを企てる。この作品は、後々まで、さらに現在まで続く週刊少年ジャンプの3大原則「友情・努力・勝利」が初めて前面に出された作品だった。

「マタンキ!」

 少年たちはメタクソ団バッジを作り、それを警察手帳のように提示しながら挨拶する。マタンキというのはもちろん金玉の逆さ読みである。女性から見ればただのばか集団だ。

 しかしそもそも大人の男社会がただのばか集団なのだ。それを喝破したのはインテリ層が書く評論ではなく、中卒の漫画家とりいかずよしのスカトロ漫画だった。

集英社 品切れ重版未定(Kindle版330円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

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