「包丁人味平」(全12巻)牛次郎原作 ビッグ錠作画
「包丁人味平」(全12巻)牛次郎原作 ビッグ錠作画
グルメ漫画花盛りである。今も進行形であらゆる漫画誌で人気上位をとっている。「深夜食堂」「孤独のグルメ」「そば屋幻庵」、そして「女くどき飯」「フェルマーの料理」「猫ラーメン」まで、シリアスありコメディーあり、さまざまなトーンで食が描かれる。このジャンル、すでに100作どころではなく300作以上になっているのではないか。
嚆矢は何だったか。記憶をたぐれば「包丁人味平」にたどり着く。「どっちがうまいか」という対決もので、当時あまり知られていなかった料理の世界を少年読者にまで見せてくれた。
主人公の塩見味平は日本料理の名人の跡取り。しかし父の反対を押し切って大衆料理のコックを志し、日本中を渡り歩きながら数々の料理人と対決して成長していく。
包丁試し編では料理道具ブームを起こし、カレー戦争編ではカレーブーム、ラーメン祭り編でラーメンブームを起こすなど、1970年代のグルメ界の流れに大きな影響を与えた。
原作者の牛次郎は得意のあおりで物語の腰を強くしている。そのなかでもインパクトがあったのは、カレー対決編のブラックカレーである。
時は1975(昭和50)年。東京の某駅前にある大徳デパートと白銀屋の代理戦争として、それぞれの大徳デパート内に出店する味平の店と、白銀屋に出店するライバルの一騎打ちとなる。
味平は正統派のカレー「味平カレー」を突き詰めて挑んでいくが、向こうは得体の知れないブラックカレーを作り出し、味平カレーを上回る売り上げをたたき出してその差を広げた。これを読んでいるとき私は10歳、つまり小学校4年生だった。だからまだストーリーの機微はわからなかった。しかしこのときブラックカレーを食べるために店に殺到するリピーターたちの恐ろしい表情だけは覚えている。
やがて、ブラックカレーが麻薬をレシピに入れ、客の神経系をコントロールしてリピートさせていたことが判明。警察の手入れを受けて、このカレー勝負は悲しい結末に終わる。
まだグルメ漫画の地位が低かったため、こういった強引なストーリーも必要だった。本格的にこのジャンルが人気を得ていくのはビッグコミックスピリッツの「美味しんぼ」の連載を待たねばならない。
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