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増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

釣りキチ三平(全67巻)矢口高雄作

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釣りキチ三平(全67巻)矢口高雄作

 現在、釣りといえば海釣りか渓流釣り、ゴルフと並んで金のかかる趣味のイメージがある。だがもともと釣りは庶民の実益を兼ねての遊びだった。

 時代劇を見ていれば頻繁に釣りシーンが登場する。たとえば「剣客商売」のなかでも秋山小兵衛やその息子大治郎は夕餉のおかずを釣りで調達している。昔ながらのこうしたクラシカルな釣りを私たち日本人に思い起こさせてくれたのはこの作品だろう。

 連載開始時から人気が沸騰し、“昭和版”だけで67巻もあるのであらゆる釣りが描かれた。連載スタート時に小学生だった私たち世代を熱狂させたのは、磯釣りや友釣りなどのプロ級の話ではなく、野池の鯉釣りやライギョ釣りなど身近な釣りだった。私は鯉釣り編を読んで感動し、巨鯉を狙い続けた小学生時代の夏休みがある。

 毎朝決まった時間に、茹でたサツマイモ一塊を池の同じ場所に放り込む--。これが主人公・三平が実行した鯉釣り必勝法だ。母に頼んでサツマイモの茹で方を覚えた私は、毎日朝5時半に目覚ましをセットしては池へと走り、前夜茹でたサツマイモに小麦粉と岸辺の泥を混ぜて練り、丸めて池へと放り込む。学校へ行くための早起きはできないくせに、釣りのための早起きは難なくできるのが小学生なのだ。

 これを続けて2週間後。いよいよ父の長い竿に鯉用の吸い込み針をつけてサツマイモ入りの特製餌をセッティング。これまで2週間にわたってまき餌を投げてきた場所に放り込むと、5分もするうちに巨鯉が食いついた。

 単行本総発行部数5000万部。本作品が日本全国に釣りキチを育て、釣りブームを創出した。題名にあるキチはキチガイを意味する差別用語だとも指摘される。しかしもちろん作者の矢口高雄に差別意識があったわけではない。まだおおらかな時代であったし、自身も大好きな釣り好きたちへの敬意がこの題名となっている。

 作中には、ヘラブナ、アユ、フナ、ヤマメ、イシダイ、ニジマス、イトウ、カジキなど、あらゆる種類の釣りが網羅されている。昭和版が終わってからの平成版でのカムチャツカ半島での釣り行脚も垂涎ものだ。

 釣り好きか釣り未経験かは関係なく、未読の若い人は絶対に読んだほうがいい。海外でも釣りキチたちのバイブルになっているらしい。

(講談社 Kindle版594円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

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