「イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章」イングランド銀行著/すばる舎

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「イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章」イングランド銀行著

 イングランド銀行は、イギリスの中央銀行だ。本書は、経済がよく分からない人のためにイングランド銀行が、経済を平易に語った解説書だ。

 本書のよいところは3つある。一つは、数式を一切使わないことだ。経済学では、数式を使うと簡単に説明できてしまうことが多々あるのだが、数式を見ただけで脱落する人が多いので、辛抱強く言葉による説明を尽くしている。

 2つ目は、多くの分野を網羅していることだ。景気、金利、インフレ・デフレ、GDPといった基本用語の解説から、経済危機、貿易摩擦、気候変動など、経済学の教科書で扱われることが少ない問題まで踏み込んでいる。

 そして3つ目は、決して読者にこびていないことだ。素人向けの解説書を作るときに陥る罠は、なんとか理解を得ようと、無理な例え話を持ち込んだり、複雑な問題を捨象してしまうことだ。本書は、素人相手でも、決して妥協せず、正面から解説するという課題に取り組んでいる。

 本書を読む前に、私には一つ不安があった。それは、「中央銀行の病気」だ。中央銀行の出身者は、物価安定を重視するあまり、必要以上に財政や金融の引き締めを主張することが多い。財政赤字を拡大したり、金融緩和をやりすぎると、ハイパーインフレになって、経済が破綻しますよと主張するのだ。特に日本銀行出身者は、病気にかかっている人が多いのだが、イングランド銀行の病気は、思っていたよりずっと軽症だった。

 例えば、アベノミクスが採用したインフレターゲット政策には明確な効果があると認めていたり、低成長下では財政出動に大きな効果があるとして、財政緊縮政策を批判している。ただ、インフレは一度加速すると歯止めが利かなくなるとして、無制限の通貨供給や財政出動を戒めることも忘れていない。

 つまりイングランド銀行の病気は、人間ドックでいうと要治療ではなく、要精密検査くらいのレベルだ。だから、本書で経済全体を俯瞰したあと、リフレ派の人たちが書いた経済書を読めば、簡単に解毒ができると思う。その意味で、経済が分からないと嘆く人が最初に読む解説書として、とても有用だと言えるだろう。

 ★★半(選者・森永卓郎)

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