「本でした」又吉直樹、ヨシタケシンスケ著
「本でした」又吉直樹、ヨシタケシンスケ著
書店は時代を映す鏡だなと働いているときに思うことが多々ある。一時期はコロナにまつわる本が平積みされ、またある時期では特定のコメンテーターがメディアに出ていると、その人物の書いたビジネス書や新書が並ぶ。そういうはやり廃りももちろんあるのだが、時代に合わせた世間のアップデートも感じられるのも面白いところだ。
例えば児童書、絵本の棚を見てみる。少子高齢化で厳しい業界だと思われるかもしれないが、実はここ10年ぐらいで「大人も楽しめる絵本、児童書」が出現し、子どもを持たない女性や男性のお客さまも買っていく流れがある。その中でも頭一つ抜けて人気があるのが絵本作家ヨシタケシンスケさんだ。
ヨシタケさんが最初にメガヒットを飛ばし、「MOE絵本屋さん大賞」を取ったデビュー作「りんごかもしれない」は子どもがテーブルの上にあるりんごを発見してふと「これはぱっと見はりんごだけど、りんごじゃないかもしれない……」と考え込むところから始まる。もしかしたら大きなサクランボの一粒かもしれないし、皮の中には機械がぎっしり詰まっているかもしれないなど、大人でもハッとするようなユニークな視点や哲学的なテーマがたくさんの世代に受け入れられた。
また文芸の棚を見ると文芸賞のアップデートも見て取れる。芥川賞や直木賞の候補にミュージシャンやタレントが入ることも珍しくなくなった。特にセンセーショナルだったのがお笑いコンビ、ピースの又吉直樹さんの芥川賞受賞だろう。お笑い界隈だけでなく、小説好きにも又吉さんのファンは多い。
本作はそんな時代のアップデートを担った2人の共著である。ある村に現れた2人の男はどんなにボロボロになった本でも特殊な技術で元に戻す。1行だけ、タイトルだけ、そんなちょっとした情報さえあれば彼らは復元できるのだ。この本には彼らが直したごく短い物語が多数収録されている。感動、驚き、恐怖など物語のジャンルは多種多様。1ページで終わるものもあるので、普段読書に時間をさけない人にもオススメだ。
普段は絵本とかお笑いの本とか買わないよ。そんなあなたも少しアップデートしてこの本を手にとってはいかがだろうか。 (ポプラ社 1760円)



















