りんてん舎(武蔵野)本屋・出版関係書の充実ぶりと真骨頂は“文脈”で並べた詩歌
三鷹駅から北へ。西久保二丁目バス停前に小さな看板。「りんてん舎」とある。ひらがな4文字、柔らかな響きだなーとドアを開ける。整然と本棚空間が広がるも、床のところどころに本が積まれ、不思議なリズムを放っていた。
「店名? 漢字で書くと“輪転機”ですが、尾形亀之助の詩の序文にひらがな表記されているんです」
店主の藤田裕介さん(36)がスマホを開き、青空文庫から「序の一 りんてん機とアルコポン」との記載を見せてくれる。「私は夏頃から詩集を出版したいと思ってゐました …十月になつてしまつたと思つてゐるうちに十二月が近くなりました…」。読んで、「ずいぶん自由形ですね?」と言うと、藤田さんにっこり。
「私、大江健三郎や海外文学を読んでいたのが、大学2年で亀之助の詩に出合って“風通し”がよくなって」と続ける。肩の力が抜けたという意味のよう。亀之助は昭和前期の詩人。藤田さんは「古いもの好き」ゆえにサラリーマンに向かないと自覚し、荻窪にあった「ささま書店」をノック。5年間修業し、2019年に独立したという。
「わが町 新宿」「編む人」など本屋や出版関係書が並ぶ棚の充実ぶりにまず目を見張り、続いて小川国夫、埴谷雄高、古井由吉らがぐいぐい。いやしかし、この店の真骨頂はやはり詩歌だった。
「並べ方は“文脈”なんです」と藤田さんが言う。「評伝 尾形亀之助」があった。その横に「詩集 望楼 粒来哲蔵」「喝采 水の上衣」「詩人・大岡信展」。
「あいうえお順でも、出版年順でもなく、詩集の中に登場する別の詩人の本を隣に置いたり、意味でつないでいます」
SNSを見て若い人たちがわざわざ遠くから来店
藤田さんの碩学と手間と遊び心が詰まっていたのだ。「先日、『外面のいい本は中身もいい』と、ある本屋さんがおっしゃったんですが」と水を向けると、「その考えに全面賛成です」と藤田さん。とある一冊を取り出してきた。
萩原朔太郎「月に吠える」だった。大正6年初版で、謎の植物が描かれたすこぶる美しい装丁は田中恭吉。挿絵に恩地孝四郎。神田の古書市場で落札した。80万円の値をつけているという。
「手放したくない本ほど、ちゃんと値をつけておきます」
店を始めて想定外だったのは、SNSを見た若い人たちがわざわざ遠くから来店してくれることだそう。
◆武蔵野市西久保2-3-16-101/JR中央線・総武線三鷹駅から徒歩10分/℡0422.38.8983/正午~午後7時/火曜休
ウチのおすすめ本
「いつか王子駅で」堀江敏幸著
北区王子が舞台。背中に昇り龍を背負う印鑑職人の正吉さんと、彼と知り合った「私」。2人が主人公の小説だ。
「『私』は、定職を持たずにぶらぶらしていて、翻訳とかで糊口を凌いでいるんです。小説の中に、急に書評のような文章が出てくるのも面白くて。私は自分の若い頃を重ねてしまいますね。店の定番としてだいたいいつも置いている。もう10冊以上売りました」
(新潮文庫 古本売値200円)



















