「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ著/日本経済新聞社(選者:稲垣えみ子)

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例外なく巻き込まれている「人の心を操るシステム」を描く

「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ著

 当コーナーでは小説が登場することはあまりないということにだんだん気がついてきた(←遅い)。ビジネスマンは小説を好まないのか? ビジネスに役立たないから? だとすれば、それは違うと私は思う。

 ビジネスには教養が必要などという話ではない。現代においては、リアルな世の動向を知るには小説が必須なのだ。誰もが勝手に見たいものを見て信じたいものを信じる、隣の人が何をどう考えているかすらトンと視界不良なバラバラの個の時代に、上からの俯瞰では見えないことが多すぎる。徹底して私的な地点に立って初めて全体が見えるというのが私の実感である。

 ってことで。イン・ザ・メガチャーチ。これこそビジネスマン必読ですぞ! そもそも日経新聞連載ですからネ。テーマは、今や少なからぬ人が堂々たる「生きがい」に掲げる「推し活」。賢い著者は昭和世代の新聞読者をバリバリ意識して書いたはずで、オプチャだのタグイベだの一体どの国の言葉かと戸惑いしかない我々にも実にわかりやすく恐ろしく、知ってる人は知ってるが知らない人は全く知らない、しかし現実にすごい熱量で経済を動かしているファンダム(熱狂的ファン)の世界の裏側が解剖されていく。

 だがこの本がすごいのは、推し活は実は入り口でしかなく、話はエラいところにズイズイ延びていくことだ。確かに人々を熱狂させる方法を確立することができれば対象は何であれ応用可能なわけで、世界を動かすことだってできる。つまりはこの本が描くのは、現代を生きる我々が例外なく巻き込まれている「人の心を操るシステム」なのだ。無論これは小説である。だがトランプが米国人の熱狂的支持を得ている理由も、現代日本で選挙のたびにフタを開けてびっくりな政党の躍進が続くのも、その理由の根っこのところが全て腑に落ちた読書体験に価値がないはずがない。

 最も心に残ったのは、このシステムが燃料にするのは「不幸」だということだ。客観的不幸ではなく、主観的不幸。現代とは幸せを追求するほどに他人と比べて自分は不幸であると絶望せざるを得ない時代で、このシステムはその心のスキマを決して見逃さず、っていうか無理やり掘り起こしてでも的確にロックオンしてくる。そこから逃れるには、自分が「充足」するしかない。難題だが人生を誰かに乗っ取られないためには多分もうそれしかない。全く恐ろしすぎる時代である。 ★★★

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