「占領下の日本」衣川太一編著

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「占領下の日本」衣川太一編著

 日本の占領任務に従事した進駐軍の米軍人が、プライベートで撮影した写真を編んだ一冊だが、収録された写真はすべて鮮明なカラー写真である。それも、最近流行のAI技術による白黒写真のカラー化ではなく、カラーフィルムによって撮影されたもので、当時のままの風景が閉じこめられている。

 日本でも1941年にはカラーフィルムが発売されたが、当時は戦後の極端な資材難で、一般に普及したのは60年代なので、この時代にカラーフィルムで記録された日本の姿はそれだけで貴重なのだ。

 冒頭に登場するのは、連合国軍総司令官のダグラス・マッカーサーが総司令部(GHQ)として接収した日比谷の第一生命館から出てきた瞬間をとらえた写真。見送りの女性軍人に敬礼され、片隅には見物の日本人の姿もある。重厚な建物の質感までが伝わってくる一枚で、映画のワンシーンのようだ。

 皇居の桜田門の前に戦車が並び、その周囲に占領軍兵士が並んだ、占領下であることがひしひしと伝わる写真もある。

 当時、皇居とGHQの間に位置する皇居前広場では占領軍によるパレードが頻繁に行われており、写真はそのパレードに備え待機しているときのものだそうだ。

 終戦の翌年に上空から撮影された広島の爆心地近くの写真や兵庫県西宮市の甲子園球場や東京・原宿の一帯などの焼け野原の風景には、空の青さを映し出す川面やまばらに茂る植物の緑(広島にはまだ緑さえない)が色を添え、戦時中の防空迷彩がうっすらと残る国会議事堂のすぐそばにはがれきと赤く錆びた車両が放置されるなど、焦土と化した各地の風景が、これまで見てきた白黒の記録写真とは異なる感慨を呼び起こす。

 熊本県の隈庄飛行場で焼き払われる日本軍の爆撃機など解体した日本軍の武装解除の記録もある。

 こうした戦争の傷痕を撮影した写真の一方で、公的な記録や商業的な記録から取りこぼされた占領期の日本の日常風景もカラー写真で残されている。

 新橋駅前の露天のマーケットで売られるマグロの切り身の赤さや、銀座通りに並んだ露店の店先に積みあがる竹細工の質感など、読者を80年前の日本へと瞬く間に連れて行ってくれる。

 また、銀座の晴海通りで店番をしながら弁当を食べる露天商の一家や、撮影者が招かれた日本人との会食の風景、駅で立ち食いそばを食べる姿など、日本人が品のない行為だとして忌避してきたためほとんど映像記録がない食事中の風景も多数撮影されている。

 ほかにも、後に沈没して海難史上最大の死者を出した青函連絡船洞爺丸の在りし日の姿や木炭バスなどの乗り物、さらに東宝が帝国劇場で上演した日本初のミュージカル「モルガンお雪」などの貴重な舞台写真まで。

 祖父母や両親が生きた激動の時代が、遠い歴史の中の一ページではなく、リアルな姿として迫ってくる。 (草思社 3080円)

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