サエキけんぞうさん 加藤和彦さんと“豪華な晩餐”の思い出

公開日: 更新日:

 1980年代のテクノブームでブレークしたバンド・パール兄弟のサエキけんぞうさん(61)。秘蔵写真は2009年に亡くなった加藤和彦さんとのレコーディングスタジオでのスナップ。サエキさんの作詞に目をとめて、仕事をともにした加藤さんは料理上手な面もあり……。

  ◇  ◇  ◇

 写真は06年の夏。今はなくなっちゃった河口湖にあるスタジオです。

 小学生の頃に「帰って来たヨッパライ」で一世を風靡した、ザ・フォーク・クルセダーズ(65~68年)をすごく聴いていて、その流れでサディスティック・ミカ・バンド(71~75年)も聴き、コンサートにも行っていたんです。

 初めて加藤さんにお会いしたのはそのミカ・バンドが桐島かれんさんのボーカルで最初の再結成をされた89年。僕がパール兄弟で活動しながら、小泉今日子やジュリー、うしろ髪ひかれ隊などに詞を提供していた頃です。

■安井かずみの紹介で…

 加藤さんはそれまでは作詞家で歌手の安井かずみさんとしか曲を作らなかったけど、その安井さんが加藤さんを紹介してくれてお会いしました。

 加藤さんは僕の詞に注目してくれていたみたいで、「なかなかいい詞を書くジャン」と、認めてくれて(笑い)。

 再結成のミカ・バンドに僕の詞は2つ採用してくれました。

 加藤さんはプロデューサー業が中心で、僕に作詞の仕事を振ってくれたり、加藤さんプロデュースの仕事をたくさんさせてもらいました。子供の頃からテレビで見ていたのと同じくやさしい感じでやわらかい方でした。

人生で一番おいしかった肉料理

 写真はミカ・バンド2度目の再結成となる06年のものですが、また詞を採用され、打ち合わせのため河口湖へ。加藤さんが履いていたスニーカーにはレッド・ツェッペリンのレコードジャケットの模様が入っていた! 本当にロックが好きなんだなぁと思いました。

 写真を撮った前の日に加藤さんから「ご飯を食べていけよ」と言われてました。河口湖のスタジオにはコックさんがいるけど、ミカ・バンドの時は加藤さんが自分で料理する。河口湖のスタジオにはちゃんとしたキッチンがありますから、加藤さんはレコーディングの際に、食材やフライパンなどさまざまな料理用品をバンの後部座席いっぱいに載せていくんです。

 BSで料理番組を持っていたくらい、腕前はプロ並み。前菜、メイン、デザートまであるコース料理。それを加藤さんに振る舞ってもらえるのはミュージシャンとして特別級の名誉でもある。

 驚いたのがスケジュール。レコーディングは午後1時くらいから始まりますが、加藤さんは3時には厨房にお入りになった(笑い)。6時か7時に高橋幸宏さんらメンバーの方たちとともに食卓に招かれました。

 デミグラスソースのお肉がおいしくて。僕は仕事で行くフランスでフランス料理を食べますけど、加藤さんの肉料理が人生で一番おいしかった。その夜の晩餐が音楽人生で一番豪華で、思い出に残ってます。僕は作詞だけだから、食後に帰りましたけど、メンバーはレコーディングで、加藤さんは厨房の片づけをやって(笑い)。こだわりの人です。

 09年に亡くなられて10年以上過ぎました。加藤さんはザ・フォーク・クルセダーズを学生時代からやられて、メジャーデビューが67年。フォークソングの草分けだし、当時からすぐれた演奏をし、フォークだけでなくロックもやった。ファッションもアイビーやジーンズとかいち早く取り入れた方です。日本のサブカルチャーの父で、元祖ということを多くの人に知られてほしいと思います。

(聞き手=松野大介)

▽サエキけんぞう 1958年7月、千葉県出身。80年ハルメンズ、86年にパール兄弟でデビュー。ボーカル担当。作詞家として沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など多くのアーティストに提供。著書多数。「ロックとメディア社会」(新泉社)でミュージックペンクラブ賞受賞。

※ライブ「丘を越えて、海を超えてパール兄弟2020」情報
 5月20日19時開演。ゲスト=矢野顕子、場所=渋谷クラブクアトロ/前売り5500円(税込み/スタンディング/ドリンク別)。 

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋