中村獅童はコロナ禍が生んだ“最大の好機”をものにできるか

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 若手の中では、「義経千本桜」での、義経の染五郎と静御前の莟玉が、主役である獅童の影が薄くなるほど光っていた。逆にいえば、獅童がいまひとつ。

 獅童が歌舞伎座で古典演目の主役を務めるのは初めてで、「48歳にして夢がかなった」と語っている。ましてや顔見世での主役など夢の夢だったはずで、コロナ禍の変則的興行だからこそ実現したといえる。であればこそ、素晴らしい演技を見せて、関係者に、「こんないい役者なのに、これまでいい役を与えてこなかったのは、間違いだった」と認めさせなければならないのだが、残念ながら、そうなっていない。

 狐忠信は、軽業的な動きがある役だが、体にキレがなく、重い。セリフも音量のコントロールができていない。指導してくれる人がいないのだろうか。染五郎は、父や祖父から離れての出演で、しかも大役なのに、動じることなく、凜々しい。莟玉も一般家庭出身だが、梅玉のもとで大役を重ねているので、安定している。

 獅童は、歌舞伎座に出るときも新作でキワモノ的な笑いを取る役が多く、古典の大役の機会が少なかった。後ろ盾となる大幹部がなく、門閥を重視する座組に入れなかったためだ。これは彼自身の責任ではないが、今回の絶好の機会をものにできないのは本人の責任だ。もっとも、私が見たのは4日目なので、千秋楽までには良くなっているかもしれない。

作家・中川右介)

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