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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

東宝はコロナ禍で前年比90%超…でもアニメ頼みでいいの?

公開日: 更新日:

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」がなかったらと思うと、改めてゾッとするような昨年の映画界だった。

 今週、2020年の映画興行実績が発表された。興収は1432億9000万円で、対前年比54.9%。この数字は国内の配給会社が1年間に公開した作品の総興収を示す。それを入場人員に換算したのが「映画人口」で、こちらは1億613万7000人だった。興収は2000年以降の最低である。入場人員は発表が始まった1955年以来の最低。これがコロナ禍における映画界の紛れもない現実である。

 いちいち理由を指摘するまでもない。相次いだ洋画(慣例として、米映画など外国映画全般を指す)の公開延期、緊急事態宣言に伴う映画館の休業などすでに多くのメディアで取り上げられている通りだ。ただ少し離れて、近年の映画興行が内包していた傾向がコロナ禍によって一気に浮上してきたことは見逃せない。それは映画産業の今後の課題とも深くかかわる。配給会社でいえば東宝、作品でいえばアニメーション(邦画)への依存度が一段と増していることだ。両者への依存度は今に始まったことではないが、鮮明になったのは非常に興味深い。

■2020年の映画興行実績からひもとく

 事実だけをまず書く。東宝は昨年の興収が719億2000万円だった。驚くべきは一昨年の93.3%をキープしたことだ。単純にいえば、東宝は国内の映画市場(興収)の半分を占める。これまでも同社のシェア率は群を抜いてきたが、50%を超えたのは前代未聞である。

 冒頭に記した「劇場版『鬼滅の刃』~」効果は当然としても、東宝は「今日から俺は!!劇場版」(53億7000万円)など大ヒットを連発している。圧倒的な知名度でマーケティングに長けたテレビ局映画の公開も大きい。巣ごもりでテレビの視聴率は安定しており、宣伝媒体としても抜群の効果を見せたこともあっただろう。

アニメファンこだわりの力強さが際立った1年

 アニメは、昨年の邦画興収上位10本のうち5本を占める。その数は別段昨年が突出していたわけではないが、シェアには全く驚く。10本の総興収約617億円(数字は暫定見込み・以下同)のうちアニメは約458億円。全体の74.2%にも及んだのだ。もちろん「劇場版『鬼滅の刃』~」の興収が占める割合が圧倒的だとしても、他のアニメも強さを誇る。とくに熱心なファンの多い「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(21億3000万円)などのアニメが上位に入り、興行の裾野は非常に広い。この非常事においても、アニメファンのこだわりの力強さが垣間見えた1年でもあったといえる。

 テレビ局映画、社会現象化した「劇場版『鬼滅の刃』~」はじめ、熱心なファンに支えられたアニメなどが昨年の映画興行の中心をなしたのは事実だ。東宝、アニメともによくがんばったと心底思うし、映画界が救われたのは間違いない。両者の作品を見るために映画館に足を運んでくれた方々には本当に頭が下がる。ただその一方で、配給会社としても、作品(ジャンル)としても、もっと多くのバリエーションがないと今後の映画界はジリ貧になってしまうのではないかとの危惧ももった。

■日本映画界ができることは…

 東宝、アニメ云々の話ではない。配信との兼ね合いが取りざたされる米映画の今後は、全く不透明だ。これまでも米映画は国内の映画市場を支えてきたし、これからもそうならないと映画興行はもたない。ネット配信などを絡めた話はまたの別の機会に記すとして、とにもかくにもこの国の映画界でまずできることを考えたい。

 そのひとつが、邦画分野でさきに挙げたバリエーションを幾層にも広げていくことではないのか。とくに東宝以外の配給会社の奮起を期待するのだ。コロナ禍でそのようなことを強く感じた1年であった。

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