緊急事態宣言でも営業継続を決めた寄席の矜持…なぜ決断?

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 25日に4都府県に出された緊急事態宣言を受け、エンタメ業界は舞台やライブの公演中止や大手シネコンの休館が相次ぎ、大打撃だ。

 そんな中、東京都内に4カ所ある寄席(浅草演芸ホール、鈴本演芸場、新宿末広亭、池袋演芸場)は、従来通り、感染対策を取ったうえで営業を続けることを明らかにした。東京寄席組合や落語協会、落語芸術協会が協議して決めたという。

 浅草演芸ホールのサイトでは、都から無観客での開催を要請されたが、<「社会生活の維持に必要なものを除く」という文言があり、大衆娯楽である「寄席」は、この「社会生活の維持に必要なもの」に該当するという判断から>25日以降も営業を続けるという。

 同演芸場は現在も徹底した感染対策を取っており、定員は客席の半分に絞り、開演前の手すりや座席のアルコール消毒、入場時の検温と消毒、最前列の閉鎖、中入り時の館内換気、マスク着用&私語自粛のお願いなどを実施しているが、「今回はさらに、アルコール類や食べ物の販売は中止し、客席での飲食はソフトドリンクのみ可といたしました」(担当者)という。

席亭の心意気

 また演者側も、フェースガードを着用したり、漫才師などの場合、間にアクリル板を挟むなどして対策を取っているという。演芸評論家で作家の吉川潮氏は「席亭(寄席のオーナー)の姿勢を評価したい」としてこう話す。

「寄席では、噺家さんに出すお茶も、急須から注ぐのはやめてペットボトルにしたり、楽屋入りも出番ギリギリにしてもらい、終わったらすぐ退出してもらうなど、考えられる対策はすべて講じ、なんとかクラスターを発生させずにやってきた。僕は“落語や漫才などの寄席は社会生活に必要不可欠なものではない”と冗談で言ってきたが、やっぱりこういう殺伐とした状況下では、大衆娯楽としての『笑い』は必要だと判断した席亭の心意気を支持したい」

 さらに吉川氏は、判断の背景をこう分析する。

「決して演芸場の経営面からの判断だけではないと思います。ひとつは、芸人たちの“芸の維持”ということを考えているはず。自主興行などがなかなか打てない今、芸人にとっては舞台に上がる機会は寄席だけが頼り。10日もお客さんの前に立ってないと腕が落ちるという芸人はたくさんいます。もうひとつは、寄席は他の大規模な興行に比べて、比較的近所の人がフラッと見に来る地域の憩いの場になっていたりするんです。そういう場を奪いたくないという思いもあるはずです」

「噺家サイドからすれば感謝しかない」

 一方、席亭の決断を芸人はどう受け止めているのか。落語家の三遊亭鬼丸はこう話す。

「噺家サイドからすれば感謝しかないです。客数の少なさに閉めた方が赤字にならなくていいんじゃないかと勝手に心配するほどなので。寄席は芸人を育てる場所という考えが席亭の方たちの体に入ってると思う。お上に逆らう気は全くないですよ。浅草演芸ホールは国会議員の視察を受けてますが、感染の恐れはないとお墨付きをもらってるので」

 鬼丸の話はさらに続く。

■真打ちの披露興行は芸人にとって一世一代

「寄席は戦争中も営業してたらしいけど、今回のこの状況でも営業するのは代々親から伝わってきた寄席の矜持でしょうか。寄席が休むと『寄席ですら休んでるんだから』と他の落語会の開催にも影響があるのでありがたいです。それから、真打ちの披露目興行中(芸術協会は5月1日から)というのも影響が大きかったと思います。芸人にとっては一世一代のことですので。寄席の温情でしょう」

 ロクにワクチンも供給できない上に、17日のバッハIOC会長の来日を意識しているとの声も上がる今回の緊急事態宣言。無為無策、場当たり的なお上の対応に市井の自粛疲れも限界に達している。

 浅草では木馬亭も浪曲定席を開催。批判が起きることも覚悟の上で“寄席の灯は絶やさない”と席亭たちが見せた矜持やよし、だ。

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