著者のコラム一覧
伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

映画「サマーゴースト」が示す“命のあり方”の描き方…映像はセンシティブなテーマをどう扱う?

公開日: 更新日:

 2021年、日本映画は「いじめ」や「命」に関わるテーマに目を向けている作品が多く公開されています。公開作を挙げるならば、西川美和監督の『すばらしき世界』は役所広司演じる罪を犯した男が、更生しようとする中で目にしてしまういじめも描かれ、石井裕也監督の『茜色に焼かれる』では、尾野真千子演じる水商売をする女性に客が暴言を吐くシーンがあったり、春本雄二郎監督の『由宇子の天秤』では、いじめを苦に自殺をした少女の事件の真相を女性ディレクターが追う物語が描かれたり、などです。

 どれも社会的弱者に焦点を当てながら、カメラを通して彼らをそっと見守るような視点で、“なぜ、「いじめ」が起こるのか?”という問題にも言及しています。これらは「命のあり方」について大人に考えさせ、若者や子どもにどう伝えるのかを問いかけているのです。

■「命」というテーマと優しく寄り添う映画『サマーゴースト』

 ではどうすれば、成人前の子どもたちにダイレクトに伝わるのか? そんな問いに答える一本のアニメーション映画が公開されました。『サマーゴースト』というタイトルの本作の監督、原案を務めたのは若干26歳のイラストレーターloundraw(ラウンドロー)。

 物語は高校生3人が花火をすると自殺した幽霊が姿を現すという都市伝説を試そうと集まり、幽霊を呼び出すことで自身の死生観を見つめ直す一夏の出来事を描いたものです。その物語を生み出した監督にとって本作は映画デビュー作だったのですが、記念すべき作品に「いじめ」や「自殺」という人の命と密接な関係にあるテーマを題材とした理由を聞くと、

恋愛ではなく、誰もが一度は考えるであろう自分はなぜ生きているのかという問い。そして、自殺を肯定するのではなく、希望を持って生きて欲しいという思いから」

 と話していました。確かに物語に登場する3人の若者が抱える悩みは、親からの過干渉や、スクールカーストによるいじめであり、現実社会でも「命」について考えるきっかけを与える問題です。そんなセンシティブなテーマを線の細い絵と声優たちの穏やかな声でキャラクターを生み出し、自殺シーンや残虐な描写は一切無く、感情に寄り添い一緒に見つめて行く、どこまでも優しい映画として完成させた本作は、ある種の浄化作用さえ感じるほどでした。

センシティブシーンを描くことのリスクと向き合い方

 BPO(放送の表現の自由を守りつつ視聴者の基本的人権を傷つけることがないよう、NHKと民間放送が2003年につくった第三者機関)の青少年委員会の委員で、発達心理学が専門の沢井佳子さんは、映画において自殺の具体的描写がもたらすリスクについて指摘しています。

「10歳になる頃までは、目で見た動作を真似する傾向が高いのです。映像で観たこと、つまり視覚刺激の“人のふるまい”が模倣される。“これをしては駄目”という音声や注意書きは摸倣の抑制には効きません。心理学者のアルバート・バンデューラが行った【ボボ人形実験】でも証明されていますが、特に6歳までの子どもは、映像で観たモデルの行動を自発的に真似するんです。乱暴な動作をしたモデルが、それによって罰を受けた様子を知っていても、やはり観た動作を真似してしまうのです」

 沢井さんは、映像が子どもの心理と行動に与える影響について特に言及していましたが、青年期においても、観る人の精神状態によって、行動に影響を与えうるのがセンシティブシーン。だからこそ映像に関わる人々には、「命の尊さ」を想像させるだけの表現力が求められます。

 多感な年頃の若者たちにその想いを届けたい場合は、衝撃的なシーンの具体的描写をなくして、心理的葛藤の描写から希望を見出すアプローチをとった『サマーゴースト』のようなスタイルが、「命の尊さ」を描く映像表現の、今後の地平を開くものだと期待されるのです。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    北島三郎(2)2018年に次男が急逝「息子だけど、音楽の、とても良い仲間でもあった」

  3. 3

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  4. 4

    中丸雄一「アパ密会」から2年で“冠番組”…禊は済んでも「元のポジション」には戻れないワケ

  5. 5

    菊池風磨はジャニー喜多川氏の“推薦”もあって慶大総合政策学部に進学 仕事の合間に1日10時間の猛勉強

  1. 6

    趣里「大空港」視聴率好調も評価は伸び悩み…父・水谷豊「相棒」後継への期待と“日本的な弱点”

  2. 7

    反町隆史「GTO」は視聴率3%台に…同じ“復活作”でも「プラダを着た悪魔2」と明暗分けた大きな違い

  3. 8

    伝説の『アメリカ横断ウルトラクイズ』来年復活へ 番組を取り巻く環境の激変で日テレに突きつけられた課題

  4. 9

    NHK夏の音楽特番「うたであえたら」は北川景子のMCが見事 カオスと化した近年の紅白はお手本に

  5. 10

    不倫問題の西武・源田壮亮に同情が集まる意外なワケ…妻・衛藤美彩の“幸せアピール”に疲れ果てた?

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    豊昇龍が長期離脱で大の里までピンチ! “ひとり横綱”の重圧で「共倒れ」にならないか

  3. 3

    菊池風磨はジャニー喜多川氏の“推薦”もあって慶大総合政策学部に進学 仕事の合間に1日10時間の猛勉強

  4. 4

    北島三郎(2)2018年に次男が急逝「息子だけど、音楽の、とても良い仲間でもあった」

  5. 5

    SNSで大バズリ! 高市首相の「激ヤバ発言動画」発掘がブームに…中には悪質な切り取りも

  1. 6

    『ヘイ・ブルドッグ』ポールの見事なアドリブに感じるコーラスグループのすごみ

  2. 7

    有望高校球児の進路事情に異変! 青学大は「ドラフト指名と同等の価値」「明大より上」とプロスカウト

  3. 8

    KDDIが楽天モバイルへの「ローミング」終了でライバルの“品質低下”を狙い撃つ

  4. 9

    新庄日本ハム舵切り「2位シフト」 騙し騙し起用の万波中正をついに登録抹消

  5. 10

    東京・銀座、KK線再生で誕生、東京スカイコリドーは高さ8.5メートル天空の遊歩道