著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

007、DUNE、燃えよ剣…話題作の長時間化が顕著だが、観客のトイレ問題は?

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 映画の上映時間が、最近やけに長いと感じる。もちろん、今に始まったことではない。ただここ3週間ほど、上映される映画館数が多い拡大公開や、知名度も比較的高い娯楽大作の長時間作品が集中した。これはかなり珍しいのではないか。何が背景にあるのか。作り手側の事情はどうなのか。見る側はどう感じているのか。いろいろなことを考えさせられる。

 直近の主な長時間上映の作品を挙げる。公開順に「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2時間44分)、「DUNE/デューン 砂の惑星」(2時間35分)、「燃えよ剣」(2時間28分)、「最後の決闘裁判」(2時間33分)。いずれも300スクリーン以上、多いものは600スクリーン以上の公開規模である。拡大公開ではないが、前回、本コラムで取り上げた「ONODA 一万夜を越えて」も2時間54分あった。

■劇場滞在3時間、観客への負担は?

 一番気になるのが、この長時間は観客側から見たらどのような意味をもつかということである。映画を見る行為が、かなりの負担を強いることになっているのではないか。そんなことを感じる。2時間30分ほどであれば、予告編、CMなどの時間を入れると3時間近くになる。幕間時間を加えれば、さらなる時間の超過だ。近場はともかく、都心の映画館に赴くとなれば、行き帰りの交通手段の時間含めて、ほぼ半日がかりの場合が出てくる。大変な時間だ。

 映画館に行くのに、トイレ時間を考えないといけない年配の観客が間違いなくいる(他人事ではない)。娯楽大作、話題作になればなるほど関心をもつ年配者も増えるが、一方でトイレ心配を抱く人も多数出てくる。座席近くの人に対する気遣いもあるから、途中で離れるのも難儀だ。女性のほうが、そのことを強く気にするかもしれない。このような心配から、長時間映画を控えようと思う人が出てきても何の不思議もない。演劇などでは1時間30分ほどの観劇のあとに、30分程度の休憩時間があり、トイレを使用する人たちが列を作ると聞いた。昔の長時間映画なら休憩が入ったが、今はまずない。3時間ほどを館内の同一空間内で過ごさなくてはならない。

■若者層への影響は?

 では、比較的トイレ心配のない年配者以外の人たちはどうかといえば、この層とて躊躇する人も出てくるのではないか。3時間近いのはきついなあ。時間のやりくりが難しいぞ。デートでは、ちょっと気まずくないか(もっと別のことに時間を有効に使いたいなど)。これらはあくまで推測だが、何らかの負担を及ぼすことは十分に考えられる。

 負担とは物理的、マインドの双方を指す。とくにマインド面で見るのにモヤモヤ感があると、目指す映画から自然と足が遠のいてしまうかもしれない。

 長時間映画が、興行に具体的にどれだけ影響があるのかはデータがないので、はっきり言ってわからない。映画館側からいえば、シネコン登場以前では1館(スクリーン)型の映画館が多かったので、長時間映画は上映回数(1日3回とか)が限られたが、今は違う。シネコンの多スクリーンの番組編成のなかで、長くても回数を増やす融通性ができている。映画館側のデメリットは減っているが、要は見る側の意識・行動がどうなっているかである。

 さきに挙げた作品は、内容的にはいずれも大きな成果を上げていたと思う。かつてのように長い作品だからといって、途中で飽きがくるようなことがまずない。時間だけが長い空疎な大作では全くないのだ。作り手は観客のほうを向き、飽きさせない演出の力量、工夫をさまざまに見せている。描写に漲る技術力の向上も大きい。作り手には長いなりの必然がある。大きな満足感は長い時間があったからとさえいっていい。

 映画にこだわりを見せる人たちは、作品が長かろうが短かろうが見る。当然のことだが、娯楽大作ともなれば、気軽に見たいと思う人たちも大勢いる。映画館に出向こうとするその人たちの足を長時間の足かせが、少しでもとどまらせているとしたらどうだろうか。

 これは映画のクオリティー云々の話ではなく、あくまで時間の問題だ。必然がある長時間映画は作られてしかるべきだが、作り手と受け手の間で、意識・行動の微妙なズレができつつあることも無視できない。今回の集中度は稀な事態かもしれないが、全体的に映画の上映時間は長くなっている。その積み重ねが、「映画離れ」につながらなければいいのだが。

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