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立岩陽一郎ジャーナリスト

NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」はじめ、「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」「トランプ王国の素顔」「ファクトチェックとは何か」(共著)「NHK 日本的メディアの内幕」など著書多数。毎日放送「よんチャンTV」に出演中。

大谷翔平選手の声明を巡る報道を考える…ファン心理が識者の発言に影響を与えてないか

公開日: 更新日:

存在が大きいだけに説明責任が生じるのは当然

 まず「秘密の暴露」だが、そうであれば大谷選手は、「水原氏がどのように私の口座にアクセスし不正な送金をしたかは捜査上のことで話せない」と言えばいいだけだ。それは捜査上の「秘密の暴露」を明かすものではない。また、大谷選手が知らないなら、「その点については知らない」と答えればよい。別に「推測」「憶測」を語る必要はない。

 つまり「話せない」「知らない」と答えることで、少なくともこの時点での説明責任は一定程度果たしたことになる。冒頭に「現在進行中の調査もありますので今日話せることに限りがある」と言うだけで、多くの人が知りたい疑問点に触れないという方法では、疑問点が膨らむことになるだけだ。

 大谷選手の活躍には誰もが期待する。その存在の大きさは日本を超えて世界に広がっている。それだけに、大谷選手に説明責任が生じるのは当然のことだ。大谷選手のファンが私の発言を批判し私を罵倒するのは仕方ないだろう。そうしたファン心理は理解できないわけではないし、私自身はそれを覚悟して発言している。しかし、テレビに出る識者が説明責任を重視しないかのような発言をすることは、いたずらに世論に寄り添っているだけのようにしか私には感じられない。それは、放送史を学ぶ私には戦前の体制翼賛的な放送への回帰の入り口にさえ感じられる。

 3月29日(日本時間)、もともと朝早く起きて執筆作業をする私だが、この日はNHKのBSをつけながらの作業となった。大谷選手の本拠地ドジャースタジアムでの開幕戦を観るためだ。大谷選手が技ありの二塁打を打ち、しっかりと四球を選ぶところを見て目頭が熱くなった。

 ただ、私がこの日、最も嬉しかったのは二塁打でも三打席目の二本目のヒットでもなく、4打席目の三振の後だった。こう書くと、「やっぱりあいつは大谷選手が嫌いなんだ」と言うだろう。違う。私が嬉しかったのは、三振の後、マンシー選手ら同僚の選手にピッチャーの球種を自らの言葉で説明していたところだった。通訳を介さず、真剣な表情で伝えていた。その姿を見て、大谷選手が自ら状況を変えようとしている意識を感じた。

 大谷選手は試合後も記者の取材に応じ、この問題についてアメリカのメディアに問われた際に、それについては答えられないと応じたという。私はそれで良いと思う。「答えられない」と明言することと、触れない、質問を受けないというのは大きく異なるからだ。

 私は大阪を本拠に生活しているが、実は阪神戦もオリックス戦もほとんど観ない。観るのはメジャーリーグだ。アメリカで生活している時も、赤レンガが美しくボールパークと呼ぶにふさわしい地元メリーランド州にあるオリオールズのスタジアム、「バンビーノの呪い」が語り継がれる歴史と目の覚めるような赤と緑が印象的なレッドソックスのスタジアム、飛距離が出ることで知られるロッキーズのスタジアム、攻撃が始まると観客総立ちで先住民族が斧を振る仕草を真似ることで有名なブレーブスのスタジアムなどで試合を楽しんだ。

 そんな私にとって、大谷選手の活躍をテレビで観るのは数少ない楽しみの一つだ。それは今後も変わらない。ただし、繰り返す。それと大谷選手の説明責任の重さは混同すべきではないし、仮に世論がそうなっても、識者とされる人は流されてはいけない。

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