著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

上白石萌音「法廷のドラゴン」は飛び切り異色のリーガルドラマ

公開日: 更新日:

 これまで数多くのリーガルドラマが作られてきたが、上白石萌音主演「法廷のドラゴン」(テレビ東京系)は飛び切り異色の一本だ。

 ヒロインの天童竜美(上白石)は、かつて女性初のプロ棋士を期待された将棋の天才。そんな彼女が一転して弁護士となった。このドラマの面白さは、一にも二にも竜美が法廷を将棋盤に、裁判を対局に見立てて戦っていく趣向にある。

 第1話は、押し買いの被害に遭った女性(松坂慶子)が夫の遺品を取り戻す、遺品返還請求訴訟だった。竜美は、相手が玉を盤の隅に移動させて金や銀で脇を固める「穴熊囲い」の戦法を選ぶと予測。同様の囲いをつくる「相穴熊」で対抗する。だが、飛車に例えた証人という「駒」が悪手となり、苦戦を強いられる。

 第2話では大学教授(加藤雅也)の研究を女性清掃員(山口紗弥加)が毀損したとする、損害賠償請求訴訟を担当。彼女を救うための「捨て身の一手」として、両者が失ったものを比較する戦法に出る。それは、互いの持ち駒を点数化して勝敗や引き分けを決める「持将棋」の応用だった。

 難しい裁判とわかっていても、「指す前から勝負が決まっている対局なんてありません!」と竜美。何でも将棋に置き換える思考は、将棋に詳しくない者にとっても新鮮で興味深い。法廷で上白石が披露する、着物に袴の凛とした姿も見どころだ。

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