異色サスペンス「フェイクアウト!」は次の「侍タイムスリッパー」の到来だ
“どんでん返し”の名手とうたわれた内田けんじ監督
こういう複数の視点から描くサスペンスは、自ら脚本も書いた「運命じゃない人」(05年)、「アフタースクール」(08年)、「鍵泥棒のメソッド」(12年)などの、内田けんじ監督が得意としていた。彼の監督作は国内外で高い評価を得て、その映画は韓国や中国でリメークもされている。ほんの脇役と思っていた人物が、視点が変わるとキーパーソンになるなど、緻密に構成された脚本によって、彼は“どんでん返し”の名手とうたわれた。しかし内田監督は12年を最後に新作映画を発表しておらず、稀有な才能の持ち主だけに非常に残念な気がしていた。今回の片山直樹は、そんな内田監督の雰囲気を引き継いだ脚本家と言える。
純朴で恋人に一途な誠人を演じるのは、これが映画初主演、プロサッカー選手の三浦知良と設楽りさ子の長男の三浦獠太(27)。そして作品の中盤までヒロインと思えないゴスロリファッションのキャラを演じているのが浅川梨奈(26)とニューカマー的存在。しかし浅川と絡む裏社会に通じた男を個性派俳優・矢柴俊博が飄々と演じていい味を出しているし、誠人に付きまとう冷酷な借金取りをNON STYLEの石田明がクールに演じ、脇のキャストはバラエティーに富んでいる。
20日の公開当初は、関東5館、関西2館で上映予定だったが、現在は関東圏で20館のほか、全国42館に拡大。「カメラを止めるな!」「侍タイムスリッパー」に続く“大化け”作品になりつつある。「侍──」は全国140館以上、インディーズ作品にして興行収入2億円超え。同作も観客の反響が気になる一本である。
(金澤誠/映画ライター)