「時代に挑んだ男」加納典明(33)「やばいタイトル」のまま強行突破したら仕事が殺到した
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
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増田「ニューヨーク帰りのその個展、マスコミが騒いで大変な話題になったわけですね」
加納「俺が想像していた以上の大騒ぎになった」
増田「タイトルからしてそもそも凄いですよね」
加納「そう。『FUCK』というタイトルでみんな来たんだろうけど、あれは計算外だった。タイトルで呼ぼうなんて思ってなかったから。オレは単にFUCKという四文字が好きだったわけ。シンプルでいいなって。もちろんFUCKの意味は知ってたし、アメリカ人がどういうときに使うかも知ってたよ」
増田「やばいとは思わなかったですか。アメリカの知人とかは止めなかったんですか」
加納「止められた(笑)。でも俺は俺のヌードにぴったりだと思ったから。まわりは『やめとけ』って必死になってたけど『いいからいこう』って言って強行突破した。それで大騒ぎになった」
増田「そりゃ大騒ぎになりますよ。FUCKという言葉は日本の性交とか房事とは別次元の卑猥な言葉で、差別的な意味でも使われるワードですからね。まあでもその言葉の衝撃度もあって名前が一気に沸騰したわけですが」
加納「仕事が殺到してね」
増田「撮影依頼の」
加納「もちろんそれはめちゃくちゃたくさん来たけど、それだけじゃないの。小説書いてくれとか映画出てくれとか、止まらないんだよ、ほんとに」
増田「へえ。それはすごい」
加納「たとえば映画だと田原総一朗の『あらかじめ失われた恋人たちよ』というのに、あれは桃井かおりのデビュー作だったんだけど、それに引っ張り出された。言葉を話せない人物の役柄だったんだけど」
増田「スタローンとかシュワルツェネッガーも最初はそんな感じだったみたいですね。外国のなまりがあったりして」
加納「そいつは知らなかった」
増田「まあでも俳優の道へ本格参戦されなくてよかったですね。あっち行ったら写真が中途半端になってしまう」
加納「うん。だから意識的にその後は遠ざけた」