ギランバレー症候群と闘う俳優の佐藤和久さん「意思表示が何もできなかった」
佐藤和久さん(俳優/54歳)=ギランバレー症候群
朝、立ち上がった瞬間、激しいめまいに襲われました。まるで頭の左右を誰かにがっちりつかまれてグワングワン回されているような、凄まじいものでした。それが2021年7月4日のことです。
唯一の予兆は前日の深夜までスマホを見ていて視点が合わなくなったこと。でも、ただの疲れだと思っていました。
妻に支えられてタクシーで病院へ行くと大学病院を紹介され、すぐさまタクシーで移動となり、到着すると車いすに乗せられて検査が始まりました。その間にまぶたが落ちてくるのがわかりました。
夕食は食べたけれど嘔吐し、そのぐらいから記憶があいまいです。検査のためにストレッチャーに乗せられてからは呼吸ができない状態になり、「なんで俺だけこんなに苦しいんだ」と叫んだのを最後に意識が落ちました。
それからどのくらいして意識が戻ったのかわかりません。というのも、気管切開で人工呼吸器がつけられて、右足の親指がかすかに動く以外、体は微動だにせず、声はおろか目も開かないので、意思表示が何もできなかったからです。まるで“植物状態”でした。
唯一、聴覚だけがあって周りの声はなんとなく聞こえていましたが、それを伝える術もありません。「ああ、動かなくなっているんだな」と素直に状況を受け入れるしかなく、そこに焦りや悲しみはありませんでした。ただ、決まっていた仕事に穴をあけたことだけが悔しかったですね。
「ギラン・バレー症候群」は、急性の炎症性末梢神経障害で自己免疫疾患の一種といわれています。まったく知らない病気でしたし、「こんなに急激に重症化するのは珍しい」と言われました。薬の投与とともに、胃ろうからの栄養補給が行われ、後に首の動脈からもカテーテルを入れて栄養が補給されました。管が血管を通る感覚はわかるし、注射をされれば痛いんです。でも、はたから見れば眠っているだけなので、新人看護師さんがよく僕の採血をしに来ました(笑)。心の中でいつも「痛いんだけど」とか、「そこじゃないよ」と軽くツッコミを入れて人知れず楽しんでいましたね。
病室ではずっと妻が持ってきてくれた僕の好きなCDと、集めてくれた仲間の声をエンドレスで聞いて過ごしました。