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「ルポ戦争トラウマ」後藤遼太、大久保真紀著

 今年はついに80回目となる8月15日。改めて思う戦争の災禍。



「ルポ戦争トラウマ」後藤遼太、大久保真紀著

 アジア・太平洋戦争で兵士の立場にいた人は、いまではきわめて数少ない。当時、10代半ばで少年兵として徴用された人もいまや100歳近く、生の証言を聞く機会は少なくなっている。

 朝日新聞記者2人による本書は沖縄在住の96歳の男性の実体験から始まる。

「護郷隊」と称する少年部隊に徴用され、捕虜になってはいけないと信じて米軍相手のゲリラ戦を行って九死に一生を得たあと、戦後は強度のトラウマに苦しむ。米軍に立ち向かって村を焼いたりしたことから郷土の人々の目も冷たく、不遇の生涯を余儀なくされたという。

 ほかにも米兵と結婚した米国在住の87歳女性ら、さまざまな当事者への取材をふまえた戦争の災禍が胸に迫る。

 トラウマは第1次世界大戦で「シェルショック」と呼ばれた。兵士たちの心の傷はこの時代の経験から明らかになり、いまでは災害救助に出動して遺体などを目にする機会も多い自衛隊員らにもトラウマ対策が講じられているという。トラウマは世代を超えて「負の連鎖」を人間に課す。自分が知らないうちにトラウマを背負い、未来にまでそれを受け継いでいくかもしれないのだ。80回目の夏にその意味を深く考えたい。 (朝日新聞出版 1045円)

「昭和20年8月15日」中川右介著

「昭和20年8月15日」中川右介著

 音質の悪いラジオ放送で実は何を言っているのかは分からなかったともいわれる玉音放送。副題に「文化人たちは玉音放送をどう聞いたか」とある本書は文壇人から映画界、歌舞伎界の大物、さらに少国民として放送に接し、戦後に各界のスターになっていく世代までの体験談や証言を集めたユニークな終戦記念日論。

 当時46歳だった川端康成は戦時には不釣り合いな源氏物語の注釈本を読み進めたところで8月15日を迎え、のちに「戦前戦時戦後にいちじるしい変動はない」と書いたという。

 逆に文壇の重鎮として軍部への宣伝協力に奔走した菊池寛は「軍の指導者達は天魔に憑かれていた」とし、「ドイツの勝利を信じたことと米国の国力の誤算」を直接の敗因と考えた。「しかし、こんなに軍部が専横を極めたのは、日本人がダラシがないからである」とも断じた。

 松竹映画の撮影所長だった城戸四郎は「自由に映画を作ることができる」と安堵し、航空基地の整備兵だった三船敏郎は熊本の特攻隊基地でその日を迎えた。まだ10代の少年航空兵が毎日飛び立っては帰らないさまを見ていた三船は敗戦の知らせに「快哉を叫んだ」と振り返ったという。 (NHK出版 1265円)

「占領期日本 三つの闇」斉藤勝久著

「占領期日本 三つの闇」斉藤勝久著

 読売新聞記者を定年退職後もジャーナリスト活動をつづけた著者は3年前の夏、占領下の日本でGHQが行った検閲問題をネットの連載で取り上げようとしたところ、編集部から待ったがかかったという。ロシアのウクライナ侵攻が始まってまもなくの時期で、「検閲は中国やロシアの問題」「こんな記事が英訳されて、読んだアメリカ人はどんな思いをすると考えているのか」と言われたという。そこで発奮して書き上げたのが占領期の検閲と公職追放と疑獄を論じた本書。

 終戦から80年も経つと占領期の経験も忘れられ、当時を知る世代も当時は子どもだったから検閲などの実態は知る由もない。しかしそれ以上に著者は、占領期の体験は、日米双方にとって「もう思い出したくない」「なかったことにしたい」過去になっているのではないかという。だが、ウクライナ侵攻の悲惨な状況を知った今日、闇の歴史を振り返る意味は大きい。

 戦争に敗れた日本が主権を停止され、戦勝国に占領された経験が今日の「日米同盟」の起源であり、戦後史の「自虐史観」を嫌う右派にとっては占領軍が仕掛けた陰謀とみなされる。しかし日本占領はむしろ歴史の普遍的な故事であることが本書でもわかる。 (幻冬舎 1056円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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