「治る認知症」治療のタイミング逃すと「治ら“ない”認知症」に
認知症は特定の病気を指しているのではなく、「物忘れ+認知機能の低下による他のさまざまな症状」によって日常生活に支障をきたす状態の総称です。
代表的な4つの種類、具体的にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が認知症の8~9割を占め、これらは残念ながら治すことはできません。しかし、残りの1割は「治る認知症」です。
物忘れがあったら早めに検査を……という理由は、軽度のアルツハイマー型認知症であれば新薬を使えること、早期に介入するほど進行を遅らせるための打つ手が多くなること、そして「治る認知症」かどうかを早くに確認できること、が挙げられます。
「治る認知症」は、それに応じた検査をしないとわかりません。「治る認知症」であることを見過ごされたまま、「治ら“ない”認知症」として何年も過ごしていると、場合によっては不可逆的な状態になってしまう恐れがあります。つまり、せっかくの「治る」チャンスをふいにしてしまうかもしれないのです。
「治る認知症」には、まず脳外科的な病気があります。代表的なものは2つです。
ひとつは、正常圧水頭症です。脳は活発に活動しているため、脳の細胞から不要物が生じます。それを洗い流しているのが、脳脊髄液という液体です。
この脳脊髄液の流れが何らかの理由で停滞すると、脳室という脳の中にある池に脳脊髄液がたまり、脳室が脳を圧迫してしまいます。これが正常圧水頭症です。
正常圧水頭症では、物忘れのほかに、代表的な症状が2つあります。それは歩行障害と尿失禁です。
歩行障害では、異常に歩くスピードがゆっくりとなり、足を大きく開いた不安定な歩き方になります。
物忘れ、歩行障害、尿失禁があれば、正常圧水頭症を疑い、CTやMRIの画像検査と、髄液排除試験(タップテスト)を行います。タップテストは、背骨から細い針で髄液をゆっくりと抜く検査で、局所麻酔を使うので痛みもほとんどありません。
タップテストで症状が改善されれば、正常圧水頭症と診断し、脳にたまった髄液を皮膚に埋め込んだ細いチューブを通して腹部に流す「髄液シャント術」という手術を行います。
正常圧水頭症と診断され手術を受けた方では、あのひどい物忘れは本当の出来事だったのだろうか……と周囲が思ってしまうほどの回復を見せることも珍しくありません。
正常圧水頭症は、「治らない認知症」と併発する可能性もあります。すでに認知症と診断されていて、しかし認知機能の低下が急により目立つようになってきた時は、「治らない認知症」と「治る認知症」の2つを発症しているのかもしれません。