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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

stacks bookstore(神保町)選書のほぼ全てがオーナー・山下さんが読んで心に響いた本

公開日: 更新日:

 アパレルのショップだと思って入ってくる人も少なくないそうだ。広い窓から、しゃれたTシャツのディスプレーが見えるから。目を凝らせば、本の存在にも気づく……という感じ。

 大判本「地球の食卓」が壁面の棚から見下ろす店内に、大きなテーブル。その上に、表紙が見える形で本が置かれていて、私の目を引きつけたのは、前田エマ著「過去の学生」、戸谷洋志著「詭弁と論破」、チャン・リュジン著「仕事の喜びと哀しみ」、柚木沙弥郎著「旅の手帖」。旬な本、それもロングセラー化の兆しがある本が多いもよう。

“荷札”が点在し、それがポップ。コメントがびっしり手書きされている。

「コメントを書いているのは私たちですが、選書はオーナーです」とスタッフの潮平知彩さん(23)。

 オーナーは、編集者の山下丸郎さん(42)だ。店名の「stacks」は、「本の積ん読」に近い意味合いから。選書のほぼ全てが、自分が読んで心に響いた本だとご本人に電話で聞いた。近代文学を専攻した早大在学中、マガジンハウスの雑誌ライターをしたのを端緒に、編集畑を生業に。2021年に渋谷でアートブックの小さな本屋を趣味的に開き、「ほかの好きなもの、クラフトビールや雑貨も提供できる広い店を」と昨年神保町へ──との経緯だったとも。

「服もビールもうちでは同列です」

 そんなわけで、山下さんが店にいる日は限られているが、潮平さんたちが楽しそうに働いている。

「これ、スペインのアーティストが日本で撮影したんです」と、車の写真集「TIME FLIES」を手に、「タイトルは、多分“時は早く過ぎる”の意味から。古い外車が多いけど、日産スカイラインも載ってます」と、該当ページを見せてくれる。「ご存じです?盛岡の出版社BOOKNERDから出たすてきな食エッセー」と、くどうれいん著「わたしを空腹にしないほうがいい」も推してくれる。

「服を見にきて、面白そうな本もあると気づいてくれたらうれしい。服も本もビールも、うちでは同列です」(山下さん)

 約70平方メートルに、推定800冊。店内一角に、各地のクラフトビール、クラフトジンもずらり。バーカウンターもある。

◆千代田区神田神保町1-41-1 三省堂第2ビル1階/地下鉄各線神保町駅A7出口から徒歩4分/正午~午後9時、無休(年末年始のみ休み)

ウチの推し本

「stacks issue5」stacks bookstore刊 3300円

 Houmi Sakata、BNZら写真家とHikaru Ichijo、YUBIAらイラストレーター合計7人の作品88点が並べられている。

「ウチで不定期に発行している、ストリートカルチャーが基本にあるジンです。どのアーティストの作品も個性的ですが、私が特に注目しているのはHikaru Ichijoさん。シルクスクリーンの質感を生かした、ポップなイラストを描かれています」(潮平さん)

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