ドラマ『しあわせな結婚』の奇妙な違和感。松たか子らの“ちぐはぐさ”は計算どおりなのか?
『光る君へ』『ふたりっ子』『大恋愛』などで知られるベテラン脚本家・大石静さんの完全オリジナル作品として、夏ドラマの中でもひときわ注目されているのが木曜ドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)です。
『不適切にもほどがある!』(TBS系)や朝ドラ『あんぱん』(NHK)で改めて注目を浴びる旬の俳優・阿部サダヲさん(55)と、大女優・松たか子さん(48)とのマッチングも話題になっています。
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その評判通り、脚本、セリフ、お二人の演技、個性的な脇役キャラ、人気アートディレクター・吉田ユニのポスター、Oasisの名曲「Don't Look Back In Anger」など、全てが光るドラマになっています。
しかし、全体的にどうかと聞かれると、どこかちぐはぐでかみ合っていないような印象をおぼえるのです。
第1話を見終わった後の違和感
『しあわせな結婚』は、独身を貫いてきた人気弁護士・原田幸太郎(阿部)が高校教師・鈴木ネルラ(松)と運命の出会いの末に電撃的な結婚するも、ネルラには過去の殺人の疑いがあり……という、ミステリータッチのストーリー。
公式ホームページによれば、「夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス」という謳い文句です。
第1話では、ふたりのキャラクターから、出会い、愛の進展、ネルラのミステリアスさが丁寧に描かれ、最後はドラマの軸となる殺人疑惑の謎が投下されるなど、確実に次も見たくなるような展開でした。
しかし、見終わった後、どこか胸の奥につかえたような違和感が湧いてきました。
松たか子は間違いなく「実力派」だけど…
まず、幸太郎は果たして阿部サダヲさんでいいのだろうか? ということ。独身主義を貫いてきたひとり好きという部分は阿部さんのイメージとしてわかりますが、結婚が判明した際、女性のプロデューサーから「なんで私じゃないの!?」と悔しがられたり、女性人気が高かったり。
立ち位置的にも『ひるおび』の八代英樹弁護士を思わせるため、役柄的に二枚目の俳優が相応しかったのではないかと感じてしまったのです。
そう思うと、松たか子さんも、幸太郎が電撃的な出会いをして運命を感じるという点において、もっと別の何かを欲してしまう。
ハッキリ言えば、松さんのような実力派の俳優さんよりも、美貌を売りにしている俳優さんのほうが、電撃的な出会いで結婚する説得力があるのではと考えてしまいます。ネルラのミステリアス感は彼女にしか出せない謎の雰囲気で、さすが実力派だと感心してしまうほどなのですが…。
第1回の野呂佳代さん、戸塚純貴さんの出演も、どこかモヤモヤ…。1シーンのみゲスト出演ではもったいないほどの芸達者で知名度もある配役です。
これだけの俳優さんが出るんだから、何か出るのではという期待しているのですが、4話経過時点ではそのヒントはまだない状態。このまま1話のみゲスト出演だけで終わったら、無駄遣いと言ってもいいキャスティングの印象です。
ミステリーなの? ホームコメディなの?
ミステリーで引っ張りながら、夫婦愛や軽快な家族のやりとりもこの作品の魅力であります。幸太郎の義理の家族である寛(段田安則さん)、考(岡部たかしさん)、レオ(板垣李比人さん)などの個性的なキャラクターと幸太郎との掛け合いは、見ているだけで楽しい。
中でも3話の旅行先でのカラオケ大会は、それぞれの役者さんの普段聴けない歌声を聴けるという点において貴重なものでした。幸太郎のネルラへの想いのモノローグもふんだんで、胸がキュッとなる恋愛要素もふんだんに盛り込まれています。
しかし、一方で繰り広げられているのは警視庁捜査一課の刑事・黒川(杉野遥亮)の視点も絡んだサスペンス…。
このドラマの考察をする視聴者もいますが、考察系とカテゴリするほど内容がミステリーに振り切っていないのも難点で、つまり、ホームコメディか、サスペンスか、夫婦間の人間ドラマなのか。
あまりにもいろいろな要素が均等に盛り込まれすぎているので、視聴する際の心の置き場がわからず、没入ができないのです。
突然流れるOasisの名曲にモヤモヤ
没入感の不足に拍車をかけるのが、エンディングテーマのOasisの名曲『Don't look back in anger』。
ドラマのエンディングは、エンドロールを眺めながらストーリーの余韻を噛みしめ、次の回への期待につなげる重要な時間にもかかわらず、曲がかかった瞬間、映像はそっちのけでOasisに聞き入ってしまいます。曲自体はいいのですが、いいゆえに音楽ばかり立ってしまっている――。
どこかドラマの雰囲気や世界観にマッチしていないような気がするのです。
実際に、SNSでも、「なんか違う?って思いながら見てます」「面白いドラマだしいい曲 でも違和感」という声も見られました。ただ、歌詞の内容が幸太郎とネルラの関係性を思わせるので、何かしらの意味はあったり、伏線的なもののひとつなのかもしれません。
もし、この主題歌でなければならない意味が今後ドラマ内で回収されればいいのですが……。
脚本、演技、エビソード、主題歌、それぞれ単独ではいいのに、どこかちぐはぐな『しあわせな結婚』。第4話ではネルラの父親・寛にまつわる衝撃の事実や疑惑も判明し、ますます展開が混沌としてきました。
これからの伏線回収に期待
攻めたテイストのドラマといえばそうですが、「このツッコミどころはラストのどんでん返しに繋がる?」「一見意味不明でも、きっと、深い意味があるのだろう」「あとから伏線回収がされるのだろう」などという期待もあり、結局視聴してしまいます。
これはやはりキャスト、脚本などの豪華な布陣のなせる業です。もしかしたら、このちぐはぐな違和感はドラマに注目させるためのひとつのテクニックなのかもしれません。
結局、気になって『しあわせな結婚』を見てしまうことになるのですから。
(小政りょう/ライター)