「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著
「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著
鳥類学者による面白サイエンスエッセー。
小笠原諸島南部に位置する南硫黄島は、原生環境が残された絶海の孤島。総合調査のため10年ぶりに島を訪れた氏を出迎えたのは大量のハエだった。海鳥が所狭しと繁殖するこの島には、カラスもネズミも生息しておらず、鳥の死体の分解はハエとカニが担っており、大気の2割を占めるハエが呼吸のたびに口内に侵入してくる。そんな過酷な環境の中、夜を徹して島を世界唯一の営巣地とするクロウミツバメを捕獲して足輪をつけて放鳥するという作業に取り組む。
ほかにも、硫黄島と北硫黄島に分布していたシマハヤブサを自ら「絶滅」に追い込んだエピソードなど、軽妙な筆致で研究の実際と鳥たちの興味深い生態を語る。
(新潮社 781円)