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中川淳一郎編集者・PRプランナー

1973年生まれの編集者・PRプランナー。多数のウェブメディアの記事にかかわる。日刊ゲンダイ「週末オススメ本ミシュラン」担当。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『それってホントに「勝ち組」ですか?』など。

藤田ニコルのお宮参り投稿に批判続出 ネットの噛みつき連鎖で分かったウェブ戦略の正しい形

公開日: 更新日:

 モデルの藤田ニコル(28)が、5月1日に誕生した第一子となる娘のお宮参りへ行ったことを6月7日にXで報告。すると、これに対して「病気で子供産めない人の気持ち考えたことありますか?」という指摘が寄せられた。その指摘に乗っかる人が相次ぎ、ちょっとした騒動になったのはご存じだろうか。

 問題の指摘は「子どもを産んで幸せな人生を見せびらかして、子どもが産めない状況の私を傷つけた。許せない」という意思の表明である。藤田の投稿が1100万回ほどのインプレッションとなる中、「五体不満足」著者の乙武洋匡氏は問題の指摘に対して「みんな平気で自分の写真載せてるけど、手足ない人の気持ち考えたことありますか? ……っていう世界線にしたいのか、、、」と投稿し、藤田に異議を呈した人に逆に問いかけた。

 とにかくネットのコメントについては、「〇〇ができない人の気持ちが分かりますか! 私を傷つけました! 削除のうえ、謝罪を要求します!」という被害者アピールが伝統芸のごとく存在する。正直、この手のクソリプは無視一択でいい。

 私は2009年の自著『ウェブはバカと暇人のもの』で、自分が気に食わないものを叩く時にあくまでも社会性があるかのように表現する人々を批判した。

 なにしろ、人々が何に傷つくかなんてことは分からないのである。某航空会社がCAの新しい制服を公開したことを報じたら、驚きの批判が問い合わせフォームに来たことがある。端的に言うとこうだ。

「私はこの会社の就職試験を受けたが落ちた。この記事を読み、この制服を着られないことを改めて実感し、傷ついた。この記事の削除と謝罪を要求します」

 知るかよ……。あなたがただ単に就職試験を落ちたお気持ちを察して、「制服が変わる」という社会的なニュースを報じないということはあり得ませんが……、と思った。また、この手の人々は自分が傷ついた対象を「社会にとって良くない」的に、勝手に社会を代弁することが多い。当事者が怒ってもいないことについても、自身の「お気持ち」が社会全体であるかのような表現をし、批判を正当化する。これを私は「怒りの代理人」と表現した。

 頼んでもいないのに、勝手に怒ってくれているのである。なんでこんな「怒りの代理人」をやっているのかその心理をじっくり考えたいとも思ったのだが、なんのことはない。ただの「バカで暇人」なのである。これが本書のタイトルの発端となっている。バカで暇人だったらそんな発言をするだろう、ということで、現在も続くインターネット世論のアホさを我ながらよく17年も前に喝破したものだ。

 最近では、ネスレ日本が「一駅歩くと快適だよ」というキットカットのパッケージを作った件でも、一定数の批判が書き込まれた。都会の広告担当者と広告会社が作ったのだろうが、「田舎をなめるな!」と叩かれたのである。都会の感覚では、たとえば山手線では1キロで次の駅まで行けるし、京王井の頭線などの私鉄でも、案外駅間の距離は短いことがある。

 その分の1駅を歩いてはどうですか? そしてお供にキットカットを食べてください、というネスレのメッセージだったのだが、地方民からすると「次の駅まで30キロあるのですが……」「駅と駅の間は10キロが普通なので歩けるようなものではありません。都会の感覚を押し付けないでください」といった批判に結びつき、批判したのである。

 藤田ニコルの件については書き込み者を擁護をする気はないが、キットカットについては、噛みついた人々の気持ちも私は理解する。というのも、広告やマーケティングにおいて、より多くの人の共感を得ることが重要なのに、この件については地方の人々からは反発をくらった。

 それは、都会視点のマーケティングに立ったからであり、全国に流通する商品の担当者がこのメッセージを書くべきではなかったかな、といった感触を得たからだ。もちろん、地方発の情報も都会人にとってはピンとこないことがあるだろう。

「トラクターの運転は他のドライバーに配慮しましょう」

 これは、地方の農村でよく見る光景だ。トラクターが公道を走っていると、スピードが出ないため、その後ろに何台もの車が列をなすことがある。抜けばいいが、向かいからひっきりなしに車が来ると抜けない。

 このメッセージを都会に対して出してもピンと来ない人が一定数いるのは間違いない。そんな人たちがイライラをウェブにぶつけると、自分の経験と価値観を基に安易に批判ができてしまう。藤田ニコルに対する批判にしても、共感はされなかったものの、書き込み者は社会全体が自分に共感してくれると思ったからこそ書いたのであろう。

 というわけで、企業・個人・役所を問わず、ネットを使う場合「どうすれば反発を喰らわない企画・情報発信ができるかな?」ということを考えなければならない。何しろ地方紙の場合であれば暗黙知的に情報を出しておけばそのエリアの人は理解してくれるものの、ネットは対象が全国、いや、世界である。だからこそ、皆が不快に思わぬ表現を心掛けなくてはならないのである。

▽中川淳一郎(編集者・PRプランナー) 1973年生まれの編集者・PRプランナー。多数のウェブメディアの記事にかかわる。日刊ゲンダイ「週末オススメ本ミシュラン」担当。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『それってホントに「勝ち組」ですか?』など。

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