「公衆トイレと糞尿処理の歴史 京都を中心に、近世から現代まで」山崎達雄著
「公衆トイレと糞尿処理の歴史 京都を中心に、近世から現代まで」山崎達雄著
ヴィム・ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」は、カンヌ映画祭で主演の役所広司が最優秀男優賞を受け高い評価を得たが、主人公は公衆トイレの清掃員。映画に登場するトイレはスタイリッシュで、一昔前の公衆トイレのイメージを覆すものだ。
ところで、日本で最初に公衆トイレが設置されたのはいつか? 本書によれば18世紀初頭、町の木戸脇に置かれていた小便桶がそのルーツ。明治時代になると、京都で開かれた博覧会を機に、訪日した外国人の外聞をはばかるために小便桶は撤去され、代わりに囲いを設けた辻便所に変化していく。同時に、それまで横行していた立ち小便が禁止され、辻便所が増設される。そこで問題になるのは、清掃とたまった糞便の処理。本書はそうした公衆トイレならびに糞尿処理の歴史的変遷を主に京都を中心につづっていく。
その歴史の中で画期を成すのが1877年から再三にわたって流行したコレラで、コレラの蔓延と糞便の垂れ流しが関係しているとして、町中の辻便所に対する衛生政策が強化されていく。
また、今でこそ水洗トイレは当たり前になっているが、日本では1970年代までは汲み取り式が多く、それ以前には農家の人たちが金を払って民間の糞便を集めていた長い時代があり、その歴史は江戸中期にまで遡る。金肥という言葉があるように、人の屎尿は作物に欠かせない貴重で良質の肥料だった。例えば宇治茶栽培には屎尿は不可欠で、茶師たちが近辺の屎尿を独占しようとして農民たちの反感を買ったという記録も紹介されている。また屎尿の汲み取り・運搬を真夜中から早朝にかけての時間に限ろうとする行政と、それを緩和したい農民との間の駆け引きや、金肥の値段を巡る攻防など興味深いエピソードが紹介されている。
現在のトイレに至るまでさまざまな英知と努力が払われてきたことに改めて思いを致す。〈狸〉
(彩流社 2970円)



















