「枯れ枝に桜」の著者・君嶋彼方氏──「年を重ねたら性欲はなくなるという世間のイメージは、すごく生きづらいと思います」
「枯れ枝に桜」君嶋彼方著
60歳を過ぎた1人暮らしの女性・河津洋子が、手鏡ごしに自分の性器をのぞき込むシーンから物語は始まる。形状を確認しつつ性器に触れるのは怖く、他の女はどうしているのかと想像を巡らせる中、玄関のチャイムが鳴り、老女専門の風俗店「銀楼館」から派遣された男娼・櫻が現れた。洋子は、まぶしいほど若くて美しい櫻を家に招き入れる……。
「おばあちゃんが介護施設の男性看護師さんの腕を掴んで離さない映像を見たことがあって、それに対する多くの反応が『可愛いおばあちゃんだね』というものでした。男女逆だったらセクハラだと思いつつ、世間的には年を重ねれば人は性欲や下心とは無縁になるだろうという総意みたいなものがあるけれど、そんなはずはないだろうと。だとしたらすごく生きづらいはずだから、それを書こうと思いました」
本書は、老女専門の風俗店で働く男娼・櫻が出会う、多種多様な女性の性と人生を描いたヒューマンドラマだ。彼女たちの欲望をそのまま受けとめる櫻を通して、依頼主である高齢女性の心情に触れ、彼女たちの欲望や残りの人生への焦りや向き合い方を、連作短編の形で描いている。
「一口に男性に抱かれたいといっても、いろんな人がいて、ひとつの決まった形があるわけじゃない。いろんな理由があって、それぞれの形になっているはずなので長編よりも連作短編の形をとりました」
物語には、処女のまま死んでいいのかと逡巡した末に櫻を呼んだ洋子や、輝いていた過去に負けないように最期まで女優であり続けようとする牡丹、施設内で男性入居者に夜這いをかける好江、自殺を企てる中で悔いを残さないように風俗にたどり着いた雅など、さまざまな女が登場する。
それぞれの女に対して櫻は軽いデートの相手になることもあれば、時には依頼女性の親友や夫の前でのセックスにも応じる。
「僕は仕事中は相手のことを恋人だと思ってる。その瞬間は本気で恋してるんだよ」と語る櫻。どんな欲望でも全肯定で受け入れる櫻だからこそ、女たちは体だけでなく心もさらけ出していく。
写真でもわかる通り、著者は30代の男性だ。年齢も性別もかけ離れた著者が、なぜ登場人物の心境を描けるのかと疑問に思う読者もいるかもしれない。
「櫻みたいな男娼や老女専門風俗店が実際にあるかどうかはわからなくて、モデルがあるわけではないんです。取材しにくいというのもありますが、誰か1人に聞けたとしても、その人の答えはたくさんある答えのうちのひとつに過ぎない。それより自分の中にもある感情、たとえば僕は今でさえ10代の頃にこうしておけばといった後悔があり、年を取った時に後悔していない自信がない。そんな後悔の気持ちや、死の恐怖などを膨らませて書きました」
性を入り口に、それぞれの人が抱える生きにくさが見えてくる。男性であっても、読み進めるうちにやり残した欲望や隠していた本音に触れられてドキリとするかもしれない。
「87歳の女性読者から、若い時に恋愛できなかったことを思い出して、その後悔があるかもしれないという手紙をいただいて感激したんです。年齢や性別が違っても、自分の中にも、もしかしたら同じような気持ちがあったかもと感じ取っていただけたら」 (双葉社 1980円)
▽君嶋彼方(きみじま・かなた) 1989年生まれ。2021年「水平線は回転する」で第12回小説野性時代新人賞を受賞し、同作を改題した「君の顔では泣けない」でデビュー。「夜がうたた寝してる間に」「一番の恋人」「春のほとりで」「だから夜は明るい」など著書多数。



















