「愛はステロイド」田舎町の暴力に同性愛カップルの愛憎が絡むドロドロの犯罪劇

公開日: 更新日:

「なんで?」と見ているうちにスリリングな結末に

 父に反発しつつジム運営を手伝っている無愛想な女と、ボディービル大会優勝を夢見るホームレスの女。2人が出会いレズビアンの関係に陥ったとき、偶然にも周辺がざわめき始める。

 ルーの姉がズタボロに殴られ、見かねたジャッキーが頼まれてもいないのにJJを殺害。この殺し方がえぐい。JJの破壊された顔はショッキング映像だ。

 ジャッキーが殺人を犯したと知ったルーは、彼女をかばうために必死で証拠隠滅工作をはかる。だが当のジャッキーは少しイカれたところがあり、自由奔放に振る舞う。その挙句、殺人など忘れたかのようにラスベガスの大会に出場。その一方で田舎町ではシニアが行動を起こし、次の事件が起きる。

 つまり閉鎖的な町の暴力的な人間関係が負の連鎖となり、これでもかと化学変化の爆発を起こしてドラマが展開していく。次に何が起きるのかとハラハラしているうちに終了。最後まで観客を退屈させないドロドロ劇だ。ベロニカ・トフィウスカによる脚本の勝利とも言えるだろう。

 ルーとジャッキーの裸のラブシーンもある。筆者は男なので女性同士のラブシーンにはエレガントなイメージを抱いているが、この作品の2人はどこか暗い。その暗さが、クセのある女同士の愛憎に不穏な要素を加味している。これもまた本作の魅力と言えるだろう。

 日本でも米国でも閉鎖的な田舎町には、血とエロスの危うさがつきまとうものだ。本作は殴られても夫を見限ることができない女の相互依存や銃器の密輸、殺人事件など無軌道な要素を程よく配置。「なんでこうなるの?」と見ているうちにスリリングな結末に向かう。「人間は愚かなり」と言うしかない。

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    国分太一との協議内容を“週刊誌にリーク”と言及…日本テレビ社長会見の波紋と、噴出した疑問の声

  5. 5

    衆院定数削減「1割」で自維合意のデタラメ…支持率“独り負け”で焦る維新は政局ごっこに躍起

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  5. 10

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較