文化放送ディレクター白石仁司さん緑内障を語る「白く深い霧の中で生活している感じです」

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わが子が一番安心できるナビゲーター

 その後は問題のない左目で生活も仕事もこなしていたのですが、2020年1月にコロナに罹患してから変化しました。因果関係はわかりませんが、やり慣れたレーザー照射手術をしたところ、1週間後の眼圧が47に跳ね上がったのです。急きょ、眼圧を下げる手術を受けたわけですが、そこから左目も視野が欠けるようになりました。

 左目は中心視野がまだ残っているので、集中して頑張れば新聞の字を読むことも可能ですけど、全体的には白く深い霧の中で生活しているような感じです。人がいることは見えますが、人の顔を判別することはできません。なので、面識のある方とすれ違っても無視してしまうんですよね。社内では慣れているので、今は視覚障害者が使う「白杖」もつかずに歩きますし、知らない人が見たら普通の人。それがかえって誤解を招くといいますか……。

 たとえば、エレベーターに乗っていて扉が開いたので「ここ何階ですか?」と聞くと、「見ればわかるでしょ」という空気が流れるんです。今では社内のエレベーターは「何階です」とアナウンスされるように改善されました。

 通勤では白杖を持つようにしています。でも、片手が塞がるのでそれはそれで不便ですね。一方、パソコンやスマホの音声機能は視覚障害者にとってなくてはならないもの。ニュースも道案内も本当に助かっています。

 助かっているといえば、11歳になるわが子。子供が一番安心できるナビゲーターです。子供が小さい頃からこうなので、一緒に歩いていると私が欲しい情報を過不足なく教えてくれるんです。その点は奥さんよりも優秀です(笑)。少しは見えるうちに行けるところに行こうと、家族で出かけることが多くなりました。

 見えなくなることは怖いし不安です。でも、性格的にマイナスを考える時間がもったいないと思うタイプなので、「しょうがない」と割り切っています。それにロービジョンの番組をつくるにあたり、たくさんの視覚障害者の方にインタビューをするんですけど、みんな明るくて前向きなんです。仲間がいると心強いじゃないですか。「みんな楽しそうだからなんとかなるかな」と思っています。

 自分がこういう病気になってから、人を見る目が変わりました。「じつは思わぬ事情があるんじゃないか」と考えるクセがついたのです。

 会話の反応が悪いとか、行動がノロノロしていると思っても、人知れず困難を抱えているかもしれないと思うとストレスも少なくなります。要は気の持ちよう。コップの水が「もうこれしかない」と思うか、「まだこれだけある」と思うかで違うように、この状況の中でできることをいかに楽しむかだと思っています。 (聞き手=松永詠美子)

▽白石仁司(しらいし・ひとし) 1967年、千葉県出身。91年文化放送に入社し、番組プロデューサーとして活躍している。2022年9月から放送している「知っていますか?ロービジョン~0と1の間」でギャラクシー賞ラジオ部門の奨励賞を受賞した。

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