加藤健一さん 帰郷のたびに母が買いに走った“モチガツオ”
上質な海外作品の翻訳物を中心に年間3~4本の上演ペースを保っている加藤健一事務所。読売演劇大賞優秀男優賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章受章など受賞歴は数知れず。舞台俳優として脂の乗る加藤健一さん(69)が忘れられない逸品とは……。
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生まれたのは静岡県磐田市の漁村。実家は農家で、父は村役場の仕事もしており、母は一日中、野良仕事に精を出していました。私は7人きょうだいの6番目。祖父母を入れて11人の大家族だったので、母もそんなに手の込んだ料理をしている暇はなかったと思います。簡単にできる焼き魚や煮魚が食卓のメインでしたね。食堂専用の大きな棟があり、みんなでそこに集まって食べるんです。
生まれた頃は、まだ戦争の傷痕が残っている時代でしたが、田畑があるから米や野菜には困らない。ニワトリを飼っていたから卵は手に入るし、柿、ミカン、イチジク、桃など果物も作付けしていたので食材は豊富でした。