「70歳定年」で現役組もピンチ…リストラ加速と給料ダウン

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 4月から新年度になると、法律やサービスなどさまざまなものが少しずつ変わる。仕事や生活に影響を与えることも少なくない。では、どう変わるのか。今回は仕事に関連する法改正について詳しくチェックする。

 ◇  ◇  ◇

 サラリーマンの生活に大きくかかわってくるのが、定年だろう。昨年3月、高年齢者雇用安定法が改正され、この4月から「70歳までの就業確保措置」が施行される。具体的な措置は、①定年を70歳に引き上げる②定年制を廃止する③70歳まで継続雇用(再雇用など)する制度を導入する、などだ。

 ①~③に目新しさはない。どれも2012年の同法改正(施行は13年)で定年を60歳から65歳に延長する際、示された措置。今回の改正は、同じ要領で定年を75歳まで延長する仕組みを敷くわけだ。

 65歳への定年延長の流れをつくってから5年後の2017年、厚労省の「就労条件総合調査」は定年制を定める企業について調査している。定年制を定めているのは95・5%。そのうち97・8%は一律で、60歳を定年とするのが79・3%と8割近く、65歳は16・4%にとどまっている。

 その調査結果を解釈すれば、大多数の企業は定年は60歳に据え置いていて、継続雇用で65歳までの雇用を確保していることがうかがえる。その点を踏まえると、今回の法改正でも雇用の枠組みはそのままで、雇用継続の“ゴール”が先延ばしになるだけだろう。それで何が変わるのか。働き方改革総研の新田龍代表に聞いた。

「定年した人も、現役組も、雇用と賃金の両面で大きな影響を受けます。結論からいうと、どちらも生き残り競争が激化するのです」

 その兆候は、すでに見られているという。

「大企業の賃金体系は、50代を中心とする中高年が最も高くなる傾向にあります。そのまま70歳定年に移行すると、固定費が大幅にアップ。それを阻止するため、リストラやM&Aの分社化による切り下げが相次いでいます。今後は、正社員から業務委託への切り替えも進む。中高年の人員整理は加速します」

 昨年、希望退職を募った93社のうち赤字決算だったのは51社。約45%は赤字を免れている。コロナ禍に紛れたリストラの一端が垣間見える。それでも定年が5年延びると、企業にとって高齢者の人件費負担は増す。その対策もさらに進むとみられている。

再雇用を拒否する材料探し

 実は昨年10月、名古屋地裁は、定年後の基本給が定年前の6割を下回るのは不合理とし、未払い賃金の支払いを命じる判決を言い渡した。再雇用の中高年には追い風となる判決だが、それが逆効果というのだ。

「再雇用は基本的に拒否できませんが、例外があります。『解雇事由に相当するような問題がある場合』と『会社が再雇用で提示した労働条件で合意できなかった場合』です。今後は、就業規則に沿うような解雇事由のチェックが進んで、合法的に“赤点社員”があぶり出されるようになります。解雇に至らなくても、給料や時間など労働条件の変更は可能。減額の材料になるのです」

 ちょっとした遅刻や書類の紛失など従来なら口頭注意だったことも懲戒処分として会社の記録に残すことも考えられる。そういった“赤点実績”があれば、名古屋地裁判決の“6割ルール”を守らずに済むという。

 定年退職後の収入の希望と状況を示した表1では、「定年・退職時の4~5割」「3割以下」で実際の状況が希望を上回っている。より多くを望みながらもかなえられていない人が多いためとみられる。フルタイムの仕事を希望しながら実現している人が少ないのも給料ダウンの一因だろう(表2)。今後は、この流れに拍車がかかるとみられている。

 つらいのは職務の厳格化だ。そうなると、年功序列的な職能給はより一層すたれ、仕事と成果が連動する職務給や成果給が広がる。富士通や資生堂などは、管理職に導入している職務給をヒラ社員に拡大する方針だ。

「職務給を導入する上で仕事の棚卸しがされ、一つ一つの仕事と評価基準が対応するようになります。現役組には、その評価が昇進や降格の材料になり、雇用継続の面談では、条件交渉の材料になるのです」

 たとえば、こんな具合だ。

「○○さんの評価では、従業員としての職責を果たしておらず、再雇用は難しい。『どうしても』とおっしゃるなら、週3日勤務の嘱託になります。年収は△△万円です。よろしいですか」と。就業規則に照らして解雇事由に触れ、労働条件の変更を迫ってきたりするという。

同じ仕事を希望しても実現するのは3割ほど

 給料はダウンしても、同じ部署にいられたころとは再雇用の状況が一変する可能性がある。定年後は4割前後が同じ仕事を希望するが、希望を実現できるのは3割ほどにとどまるのが現実だ(表3)。不本意な再雇用を強いられる定年組もつらいが、突然、パフォーマンスの悪い先輩を相手にする現役組もつらい。現場では、仕事のモチベーションダウンが広がる恐れがあるという。

 トヨタは今年から一律の定昇を廃止。社員一人一人の成果を重視する制度を導入している。年功序列の職能給が職務給に切り替わるということは、成果主義になるということで現役組の給料も仕事ぶりによって変動幅が大きくなる。

 もう一つ重要なのが、同一労働同一賃金の拡大だ。「パートタイム・有期雇用労働法」が18年に改正され、正社員と非正規社員の格差を是正するこの考え方が生まれ、昨年から大企業に適用されている。この4月からはさらに中小企業も対象になる。この対象拡大も、職務規定の厳格化に一役買う可能性がある。

 昨年、大阪医大の元アルバイトやメトロコマースの元契約社員が未払いのボーナスや退職金の支払いを求めていた2つの訴訟で最高裁判決が出ているが、どちらも正社員との職務内容の相違から一時金の不支給が不合理に当たらないと認定している。

 これらの判決をうけ、企業は正社員と非正社員との職務の違いをより明確にし、給料や手当の違いをきっちり区別する枠組み作りが進むかもしれない。2つの法改正は、定年組や非正規といった弱者の味方にならない可能性があるのだ。

 65歳から70歳は、健康や体力面で老化が進みやすい年齢だ。仕事にかかわる能力の問題だけでなく、健康管理や安全管理も重要な評価項目になってくる。もちろん、会社側のサポート体制も欠かせないが、それがあってもなくても、一人一人の意識がやはり査定に関わってくる。この法改正が描く未来は、決して楽ではなく、厳しい定年後と非正規のつらさを映しているのだ。

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