横浜市長選の隠れた争点だった「花博」の是非を現地で探った…建設費が上振れ、環境破壊の懸念も
今月3日に投票が行われた横浜市長選は、現職の山中竹春市長が約66万票を獲得し、2回目の当選を果たした。次点と約40万票差の圧勝だ。実はこの選挙には、市民の間で意見が分かれる“隠れた争点”があった。2027年に米軍上瀬谷通信施設跡地(瀬谷、旭区)で開かれる「国際園芸博覧会(花博)」についてだ。会場予定地に行ってみた。
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花博とは、園芸文化の普及や、自然を通した健康と福祉、環境の向上、経済強化などを目的に、世界各国で開かれる博覧会だ。今回は70の国や国際機関の参加を見込んでいる。この大規模イベントについて市長選では、推進する山中市長に対し、他の候補者が課題を含めそれぞれの主張を展開した。
記者が現地を訪れたのは先月31日。建設作業が着々と進められていた。予定地は3メートルほどのフェンスに覆われ、関係者以外は立ち入りが禁止されている。中にはショベルカーなどの重機が何台も入り、地面を掘り起こし、整地作業を進めていた。
この場所は戦後まもなく米軍に接収され、2015年に返還された。東京ドーム52個分にあたる242ヘクタールの広大な土地で、そのうち約100ヘクタールが博覧会区域となる。
半年間で来場者1000万人想定は無謀との指摘も
会場予定地から徒歩数分の集合住宅に住む20代男性はこう話す。
「ここは近所の人が犬を連れて散歩したり、自然と触れ合ったり、憩いの場でもありました。市は花博の会期後にこの地域一体の開発を計画していて、商業施設などもつくられるようですが、こんな僻地で本当に成功するのでしょうか。開発が中途半端になり、失敗で終わらないか。貴重な自然が残されていたこの場所が、花博でどう変わってしまうのか。正直不安です」
議論が分かれるポイントは、複数ある。
まず、ただでさえ巨費を投じる会場建設費が上振れしている点だ。誘致段階の2017年時点では190億~240億円と試算されていたが、その後は最新技術の導入や建設コストの上昇などを理由に最大417億円にまで膨れ上がっている。建設費は国、自治体、経済界が3分の1ずつ負担する取り決めで、横浜市は約111億円を担う。
また、半年間に1000万人を見込む来場者想定が、無謀ではないかとの指摘もある。会場予定地は、いわば“陸の孤島”だ。最寄り駅は横浜駅から25分前後の相鉄線瀬谷駅。予定地はそこからさらに2キロほど離れた場所にあり、徒歩だと20~30分ほどかかる。
市長選に立候補していた元長野県知事の田中康夫氏は、年間来場者数が世界第3位の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」でさえも半年間の来場者数が800万人であることから、「達成不可能な計画だ」と訴えていた。
会場建設で野山は変わり果て…
地元市民団体からは、生態系の破壊を危惧する声が上がっている。
記者は3年前の2022年にも会場予定地を訪れていた。当時はそこら中に畑が広がり、木々も生い茂り、散歩する地域住民も多く見られた。終戦直後から開発の手が入らなかっただけあり、あたかもそこだけ実世界から隔絶されたような、静かで壮大な風景が広がっていた。
しかし、手つかずの自然や里山は、開発に伴い地形が改変され、流れる河川は暗渠化される。
神奈川県選出の野党系国会議員も、こう疑問を呈する。
「会場付近の道路は現在でも渋滞が見られます。花博の主催者によると、1日最大10.5万人の来場者を想定し、会場周辺の4駅から最大計820便のシャトルバスを運行するとのことです。花博でさらに渋滞が悪化しないか。そもそも、ちゃんと来場者を輸送できるのか。また、跡地利用についても計画が二転三転するなど、議論が煮詰まっているわけではないようですし、行政の見通しが甘いとしか思えません」
再来年3月の開幕まで、あと1年半。課題は山積みだ。
(取材・文=橋本悠太/日刊ゲンダイ)