ファンゴー社長 関俊一郎さんの巻(1)
AS CLASSICS DINER 駒沢本店(東京・駒沢)
サンドイッチの店を皮切りに、ハンバーガーやアップルパイなどの専門店を次々に立ち上げたこの人が薦める第1弾は、駒沢通りを挟んで東京医療センターの向かいに位置するハンバーガー店「AS CLASSICS DINER」駒沢本店だ。
「オーナーシェフの水上誠二さんはウチの卒業生で、ハンバーガーへの思い入れがとにかく深い。パティはもちろん、ありとあらゆるものが自家製なんです。開業して今もあの熱量を持ち続けているのは、すばらしいと思います」
グルメバーガー店で牛肉100%のオリジナルパティは、珍しくないだろうし、むしろそれがアピールポイントだ。しかし、「ありとあらゆるものが自家製」というのはあまり聞かない。期待して東急田園都市線駒沢大学駅を降りた。駒沢公園を右に見ながら自由通りを南へ。15分ほどで店に着くと、水上さんが笑顔で迎えてくれた。
「関さんの店では30歳から6年間、お世話になりました。当時は、経営が厳しいときで、その打開策としてハンバーガーを提案したんです。実は、サンドイッチは扱っていましたが、ハンバーガーがなくて。アメリカンフードの店なのに、なぜだろうと思っていたので、打開策にはこれしかないと考えたのです。今の僕があるのは、あのときの経験があればこそ。関さんにはとても感謝しています」
手作りにこだわった
店の立て直しに成功したことで、自分の店への思いが強くなる。たどり着いた答えが、「ここでしか味わえない味」だった。どういうことか。水上さんが続ける。
「パンと牛肉、野菜のほかは、すべて手作りでいくことに決めたのです。牛肉を包丁で切ってパティを作り、ベーコンやハム、コーンドビーフ(コンビーフ)も自家製です。マヨネーズやケチャップ、マスタードもそう。ハンバーガーに付け合わせのポテトは、生のジャガイモを揚げています。正直、しんどいと思ったことはありますが、食べにきていただく方が喜んでもらえたらうれしい。それが励みになり、楽しいので、このスタイルです」
ジャンクなアメリカンフードが和食並みの繊細さ
ソースやベーコンまで手作りとは驚いた。バッファローウィングス(820円)とシーザーサラダを頼むと、手羽先は表面をカリッと揚げ、身はしっとり。スパイシーな自家製ソースがビール(648円~)に合う。シーザーサラダに添えられたベーコンは、塩加減が絶妙。ドレッシングも自家製で、化学調味料の雑味が一切ない。ジャンクなアメリカンフードが、和食並みの繊細さだ。
記者が訪れたのは、平日の午後4時。ランチとディナーの合間で、しばらくほかの客はいなかったが、水上さんはじめ厨房スタッフは仕込みに忙しく動く。すべて手作りであるがゆえだろう。
「意外と面倒なのが、ソース類なんです。たとえばケチャップはポテトに添えたり、ハンバーガーに使ったり。なくなったときの影響が幅広いんですよ」
コスパのよさも抜群
手抜きなしの職人肌がメニューに「本気で作った」と記したコーンドビーフを注文しないわけにはいくまい。マッシュポテトにのった牛肉の塩漬けは、大きいのが2枚。ナイフがスッと入り、丁寧な仕込みがうかがえる。マスタードソースをつけると、手が止まらなくなる。これが1200円とは!
シメにお願いしたベーコンチーズバーガー(1550円)にかぶりつくと、ベーコンの薫香が鼻に抜けたことに驚く。市販のベーコンでは感じられない香りだ。チーズのコク、パティの肉感もたっぷりで、ソテーされた玉ネギが甘味を加え、シャキシャキとしたレタスが食感のアクセントになる。完成度がめちゃくちゃ高い。コスパのよさも抜群だ。
「ウチにきたら、ハンバーガーを食べないとダメ、ということはありません。コーヒー1杯、ケーキ1つでもいい。好きなときに、好きなものを召し上がってください」
通い続けたくなる店だ。
(取材協力・キイストン)
■AS CLASSICS DINER 駒沢本店
東京都目黒区八雲5-9-22 ℡03・5701・5033
■ファンゴー
サンドイッチもハンバーガーも、パンが重要な要素で、自社パン工房を設立。「酒 秀治郎」は会員制ながら、8500円で日本酒飲み放題とあって、日本酒好きの間で話題に。
▽関俊一郎(せき・しゅんいちろう) ファンゴー社長。カリフォルニア大学での米国生活でサンドイッチ文化に感化され、1995年、三宿に第1号店「FUNGO」をオープン。さらにハンバーガーやアップルパイ、和食の店も手掛ける。