(34)箱根湯本で蕎麦屋酒
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さて、腹が減った。喉も渇いた。湯本へと下っていくと、川岸に、風情たっぷりの蕎麦屋があった。迷わず、入る。
ビールに板わさが置かれたテーブルが、実いい眺めだ。さっそくグラスを傾ければビールが沁みる。店の入口に茂っていた木の葉の匂いも蘇るようである。更新というのか蘇生というのか、それとも生まれ変わりか。天然の温泉で蘇った舌に、かまぼこがうまい。そして、蕎麦だ。
とろろ蕎麦。蕎麦は海苔をのっけた、ざる蕎麦だ。このとろろ、希少な自然薯だという。
うまいねえ。実直、素朴、田舎の味。そういう連想が浮かぶのだが、淡く香って味覚と嗅覚をくすぐる上質の蕎麦と合わせたとき、この実直さがいい仕事をしてくれた。
森を歩き、湯に浸かり、うまい酒と蕎麦を味わった。今日は実にスマートな散歩酒になったじゃないか。さあ、もう帰ろう。
いや、帰りたくない。「おうちに着くまでが遠足ですよ」という戒めも聞こえてくるが、このままでは帰れない。とことん飲みたい気分になっている……。
箱根湯本の駅へ向かいながら、私はひとり、人知れず悶絶していた。

















