著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(1)蕎麦の汁で飲む

公開日: 更新日:

 秋がきた。酒のうまい季節だ。野菜も魚も豊富になり、煮るなり焼くなり、煮込むなり、漬けるなり、さまざまに手をかけて、極上の酒の肴ができあがる。

 11月になる頃から、たとえば蕎麦屋で飲むとして、鴨が出てくるから楽しみがグッと増す。鴨南蛮の抜きを頼んで、燗酒にする。上等な鴨に、やはりこの時季うまくなる長ネギを添えた椀の中は、蕎麦を抜いた鴨南蛮であるわけだが、それはすなわち鍋料理だ。一人前の、ややこってりとした、味わい深い鍋である。

 脂が馴染んだ甘い汁をすすり、息を吐き、菊正宗の燗を、ひと口、ふた口。空になった猪口に酒を満たして、またひと口。それから再び鴨にもどる……。

 秋の朝、目覚めてから寝床の中でしばらくグズグズしているときに、ふと、頭に浮かんでしまう。それからしばらく、燗酒と鴨南蛮は頭から離れなくなる。

 こういう午後は、行こう、蕎麦屋へ。迷うことはないのだ。鴨南の抜きの、格別うまいのを食べさせる店まで行かずとも、似た楽しみを得ることはできる。

 カレーライスやかつ丼なんかを出す蕎麦屋さんでいい。板わさで燗酒を1本つけてもらおうか。店のテレビをぼんやり眺めたり、スポーツ新聞なんか置いてあると具合がいい。

 ゆっくり飲んで、お銚子をもう1本。それから、たぬき蕎麦を頼む。具は天かすとネギだけで十分だ。ごく普通の何の変哲もないたぬき蕎麦。これをズズズーっとすすり上げる。

 蕎麦とともに天かすが溶けだして甘みの増した汁が胃袋の中へと降りていく。腹の中心が温かくなるにつれ、燗酒の味わいも丸く温かく感じられるのではないか。

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