開業までさらに60年…リニア計画は「日本のサグラダ・ファミリアです」取材歴20年のジャーナリストが看破

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未着工、マシントラブル、死亡事故

 ──難工事も工期遅れの要因に指摘されています。

 9.2キロに及ぶ「北品川工区」(品川区)では、地下を掘削するシールドマシンが21年10月に立て坑から発進してわずか50メートルで掘進不能に陥り、再発進から約半年後の23年10月に再停止しました。現時点で約130メートルしか掘削できておらず、進捗率は1.4%。同じようなマシントラブルは愛知でも発生しています。こうも故障が相次いでは掘削作業だけで10~20年はかかるのではないか。岐阜では発破作業に伴う斜坑崩落によって作業員1人が亡くなる痛ましい事故も起きています。

 ──そもそも、リニアは必要なのでしょうか。

 例えば、長野県飯田市から都内までバスで4時間かかるところが、リニアなら数十分に短縮される。一部の人にとっては魅力的かもしれません。財界は「東京、名古屋、大阪の3大都市が1時間圏内で結ばれることによって経済効果が生まれ、日本経済の活性化に資する」とブチ上げています。ただ、移動の足が増えて経済活性につながるとしても、自然環境を破壊したり、地元住民を立ち退かせたりしてまで推し進めていいのか。きちんと議論したのか。甚だ疑問なわけです。立ち退きをギリギリ免れた人の中には「私はリニアに反対だけれども、近所の人が泣く泣く立ち退かされたからこそ、JR東海には何が何でも27年に開業してもらわなければ、彼らが報われない」と憤る方もいらっしゃいます。開業の遅れは自明だったのに、何のために急いで立ち退かせたのか、と。その土地に長年にわたり根を張って暮らしてきた住民を経済活性の名の下で立ち退かせることで、誰が幸せになるのでしょう。

■「東京─大阪」の短縮は20分だけ

 ──リニアが起爆剤になるかも疑問です。

 13年9月にJR東海の山田社長(当時)が記者会見でわざわざ「リニアは絶対にペイしない」と明言しています。東海道新幹線と客層を食い合うリニアは「タコが自分の足を食う」ようなものですが、JR東海は一応、飛行機や高速バスなどの利用者がリニアに移ってくるとの希望的観測を出しています。しかし、「東京から大阪まで新幹線で行く場合」と「東京から名古屋までリニアで行き、名古屋から新幹線に乗り換えて大阪まで向かう場合」とを比較すると、「リニア+新幹線」の方が新幹線だけで行くよりも20分早いだけです。「20分早く着く」ために、わざわざ地下深いリニアに乗り換えますか?

 ──期待薄ですね。

 責任があるのはJR東海だけでなく、自治体もしかりです。民間企業に対して中立であるべきはずの自治体の中に、リニア推進の部署が設けられている。変じゃないですか。地域住民の暮らしや幸せに寄与するべき自治体が、リニア推進の立場から住民に立ち退きを迫る。いくばくかの補償金をつかまされた住民は家賃が安い郊外に移ったり、値頃な中古物件を求めて遠くへ行く羽目になったり。誰も知り合いのいない場所へ流れ着いて、うつ病寸前の方もいらっしゃいます。

 ──生活の犠牲は計り知れない。

 JR東海が27年開業を断念した際、立ち退きが始まっていた相模原市の職員に話を聞くと「この開発は基盤整備であり、いくら早くてもいい」「いまのペースで立ち退きを進める」などと言っていました。しかし、各地のリニア工区の工事進捗率は、私の試算では15%程度。14年の事業認可から10年経過しているので、いまのペースのままなら単純計算で開業までには約60年かかる。リニアは最終的に名古屋から大阪まで延伸される計画ですが、品川から名古屋まで34年以降に開業するまでの間は、名古屋-大阪の工事は難しいと思います。

 ──なぜでしょうか。

 現在のところ計約10兆円の建設費のうち品川-名古屋が7兆円、名古屋-大阪が3.5兆円を占めます。近年の原材料費の高騰によって膨れ上がるのは間違いないでしょう。品川-名古屋の7兆円のうち3兆円は国の財政投融資で賄えますが、残る4兆円にJR東海は約1400億円しか出していないのが現状です。JR東海は約4兆円の内部留保を抱えているので払えなくはないですが、丸々つぎ込むのは非現実的。したがって財政的な理由から、品川-名古屋の工事を進めつつ名古屋-大阪の工事を並行するのは、恐らく無理。では、名古屋-大阪はいつ完了するのか。今世紀の後半かもしれません。まるで「日本のサグラダ・ファミリア」ですよ。

(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)

▽樫田秀樹(かしだ・ひでき) 1959年、北海道生まれ。岩手大教育学部卒。NGOスタッフとしてアジアやアフリカで活動した後、フリージャーナリストに。「“悪夢の超特急”リニア中央新幹線」(旬報社)で第58回JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞受賞。共著に「リニアはなぜ失敗したか」(緑風出版)など。

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