評論家・森田実氏が指摘「橋下徹氏は極右幼児性ニヒリスト」
気に入らないものを手当たり次第に破壊
安保法案の審議が大詰めを迎える中、路線対立の末、維新の党から“創業者”の橋下徹大阪市長が離党した。今後、橋下氏は安倍首相に近い新党をつくるとみられるが、政界引退を表明しながら新党とは言動がメチャクチャだ。長年政界を見てきた政治評論家の森田実氏は既に3年前、著書「『橋下徹』ニヒリズムの研究」でズバリ、橋下氏の危うい本質を言い当てていた。
――維新の党の分裂騒ぎでは橋下さんの発言が毎日のように変わり、一体、何が起きているのか訳がわかりませんでした。
あれほど無責任に発言がくるくる変わる政治家は、普通は大手マスコミから叩かれ、潰されるものです。ところが橋下さんだけは別格扱い。マスコミが許してきたので、言いたい放題が助長され、今回のように分裂する、しないで前言撤回しても批判されない。おかしなことです。
――橋下徹という政治家はどんな人物だとお考えですか。著書では「ニヒリズム」とおっしゃっていましたが。
橋下さんは「極右」で「幼児性」を伴った「能動的ニヒリスト」だと思います。ニヒリズム(虚無主義)の圧倒的多数は「受動的」なんです。何もせずに、世の中なんて潰れてしまえばいいとひねている。歴史的には「左翼」が多く、一般大衆が虐げられている状況を改善するため、虐げている者たちをやっつけようというのが出発点でした。社会主義者や共産主義的な思想の人たちの一部が「左翼ニヒリスト」になったのです。一方、「能動的ニヒリスト」は、積極的に自ら秩序をブチ壊そうとする。「右翼ニヒリスト」は、絶対平和主義や戦争をしない戦後体制を壊す。民主主義や国民第一はけしからんという考え方。これに橋下さんの場合は「幼児性」が加わります。
――幼児性とはどういう特徴ですか。
第1に、わがまま。前言を簡単に撤回する。発言とは別のことをどんどんやってしまう。子供が「あれが欲しい」と泣きわめくようなもので、欲しいものは我慢しない。第2に、礼儀を知らない。礼儀の根底にあるのは、自分以外の周囲の人に対する最低の思いやりです。礼儀は形だけのものじゃないかと言うけれども、少なくとも対人関係を重視する思考が伴う。つまり礼儀というのは、大人にだけ備わっているもので、子供にはありません。幼児が権力を握って、極右になり、手当たり次第に自分の気に入らないものを破壊している。それが橋下さんです。併せて、橋下さんに同調し、味方しているマスコミも幼稚化が著しい。
――マスコミも幼稚化している?
マスコミは社会にとって一種の教育機関です。文化や学問、理想など、さまざまな考え方を供給する役割がある。ところが、ある時期からマスコミはその使命を放棄した。理想を失い、行き当たりばったりになり、権力の流れに身を任せるようになった。自分の力で立つことをやめ、幼児の特徴である「甘え」の論理がはびこるようになった。大新聞の社員は会社に甘え、会社は広告を出稿する企業や政府に甘える。その構造の中で育ってきた人たちが、マスメディアを支配している。そこに、橋下さんの幼児性を見抜けないメディアの堕落もあると思います。
――堕落したメディアが橋下さんを「カリスマ」にしてしまったということでしょうか。
それに加えて、社会の欲求不満が橋下さんを押し上げた面もあります。日本全体が衰退していく中でも、大阪は衰退の色が濃い地域です。豊臣秀吉の時代は、大阪は日本の中心だった。大阪の人には、関東大震災の後は大阪が東京を支えたんだ、という誇りもある。だから、今はそれがないがしろにされているという、何ともいえないフラストレーションが大阪の人にはあるのです。特に主婦層や中小企業の経営者などが橋下さんの強力な支持者です。