常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<上>
まるで空襲警報だったJアラートは恐怖を煽るだけが目的なのか
朝早くに鳴り響いた「ウォーン」という警報音に、多くが異様な気配を感じたはずだ。
29日午前6時2分、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのを受け、政府は北海道など12道県のJアラート(全国瞬時警報システム)を作動。自治体の防災無線の他、携帯電話に緊急速報メールが流された。テレビ各局の画面も一斉に切り替わり、アナウンサーが屋内への避難を呼びかけるコメントを繰り返す。6時10分すぎにNHKが流した速報は、「北朝鮮からミサイルが東北地方の方向に発射されたもよう」。その後、ミサイルが日本上空を通過したことが伝えられたが、まるで日本列島を直撃する「空襲警報」かというような緊迫感だった。
だから住民がパニックになったのも無理はない。北海道警には「どこへ逃げればいいんだ」という110番が90件以上あった。新幹線や在来線は一時運転を見合わせ。自治体は大わらわで、休校にする学校も相次いだ。
だが、Jアラートからミサイル上空通過までわずか5分、襟裳岬東約1180キロの太平洋上に落下するまで10分。そんな短時間に避難などできるわけがない。「地下に行けと言われたって、この辺りは地下がない」「頑丈な建物へ逃げようと山形県庁に行ったが、入れてもらえなかった」という冗談みたいな光景が各地で展開された。政府は全国でミサイル避難訓練を行ってきたが、これが現実なのである。
北朝鮮のミサイル強行発射はとんでもない。しかし、ミサイルは日本列島上空を通過しただけであり、人的物的被害は一切出ていないのに、テレビも交通機関も自治体も大騒ぎしすぎじゃないのか。
「日本国内が過剰に反応すればするほど、北朝鮮の思うツボですよ。騒ぎを起こして、世界に見せつけようというのが北の狙いなのですから。それに、国民が不安を感じざるを得なくなってしまったのは外交・安保政策の失敗にあるのに、安倍政権は不安を煽って対外緊張を支持率回復につなげようとしている。ひどい話です」(政治学者の五十嵐仁氏)
常軌を逸した反応は、そんないかがわしい安倍政権を後押しすることになるだけなのである。