高橋和夫氏が見据えるガザ戦闘の今後「『ハマス殲滅』は不可能 だからイスラエルは攻撃をやめられない」

公開日: 更新日:

高橋和夫(放送大名誉教授)

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの交戦は100日を超えた。ガザの犠牲者は2万4000人を突破したが、出口は見えない。長年にわたり、パレスチナとイスラエルをめぐる問題を研究し、多くのメディアで発信し続けてきたのがこの人。いつになったら停戦は実現するのか。日本を含む国際社会はどう対応すべきなのか。詳しく聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ──イスラエルのネタニヤフ首相は昨年末、ハマスとの戦いについて「あと何カ月も続く」と発言。現状と今後の戦況について、どう見ていますか。

 ハマスの抵抗が予想以上に激しく、メディアが伝えている以上にイスラエル軍は苦戦しています。イスラエルの軍事専門筋は戦闘が始まった直後、ハマス壊滅に「1~3カ月かかる」と言っていました。「長くても3カ月」というニュアンスでしたが、既にそれを過ぎてしまっています。ハマス側の被害も甚大ですが、まだ大半の部隊が地下トンネル内で生き残っているとみられます。そうした状況から、イスラエル側は長期戦を覚悟したということでしょう。これまでの無差別攻撃から、ハマスの幹部にターゲットを絞り込むような戦い方に転換する可能性があります。

■ネタニヤフの戦略、ヒズボラの狙い

 ──イスラエル軍は動員した36万人の予備役の一部を撤収させるとしています。

 ネタニヤフ政権は、ハマスと協力関係にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦争を見据えている恐れがあります。ハマスと比べて格段に戦闘能力が高いヒズボラとの戦いに備え、部隊を再編させたのではないか。ヒズボラによる空爆の危険があるため、レバノン国境付近の住民を避難させています。住民からは「いつまで避難させるのか」「早く安心して生活できるようにしてくれ」という声が上がっています。そうした声を受け、イスラエル指導者層の間で「ヒズボラに先制攻撃すべし」との議論がなされているほどです。

 ──ヒズボラは8日、イスラエル軍によるレバノン南部への空爆で司令官を殺害されたと発表しています。

 ヒズボラは報復に言及し、実際にイスラエルに向けてミサイルを撃っています。ただ、射程は短く、標的を軍事施設に絞るなど、攻撃は限定的です。本気でやり合う構えではありません。全面戦争になれば、レバノンが壊滅的な状況に陥る恐れがあるからです。

 ──ハマスを支援するイランの南東部で3日、爆破テロが発生。300人以上が死傷しました。イスラム国(IS)が犯行声明を出しましたが、中東情勢はますます緊迫しています。

 このテロにもイスラエルが絡んでいるというのがイランの一部の見方です。イスラエルがイスラム国を利用してきたとの認識もあります。こうした見方からすると、イスラエルはヒズボラだけでなく、イランをも挑発しているのです。イスラエルと地域大国イランが衝突すれば、米国を本格的に巻き込んだ戦争に転がり込むことが懸念されます。つまりネタニヤフ政権が、この機にヒズボラもイランも「一気に叩いてしまえ」と考えている恐れがあります。

 ──ネタニヤフ首相はハマス掃討作戦は「誰にも止められない」とし、殲滅を公言していますが、いつまで戦争を続けるつもりなのでしょうか。

「殲滅」の定義は何かを考えるべきでしょう。ハマスの全戦闘員を殺すことは、とてもできません。ハマス幹部を拘束、殺害するなどして「勝った」ことにするのが、ひとつの戦争の終え方でしょうか。

■関連キーワード

最新の政治・社会記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 政治のアクセスランキング

  1. 1

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  2. 2

    公明党が自民党総裁選に異例のドーカツ…「ポスト石破」本命の高市早苗氏&小泉進次郎氏に影落とす

  3. 3

    高市早苗氏は大焦り? コバホークこと小林鷹之氏が総裁選出馬に出馬意向で自民保守陣営は“分裂”不可避

  4. 4

    参政党に自民落選組がワラワラ“大移動”の可能性…「このハゲー!」豊田真由子氏が役員就任の無節操

  5. 5

    小泉進次郎氏を元首相3人&現首相が“雪崩支援”の怪情報…自民党総裁選「ジジ殺し」の本領発揮か

  1. 6

    9.8決戦を目前に過熱する「石破おろし」情報戦…飛び交う総裁選前倒し「賛成」の票読み

  2. 7

    維新またゴタゴタ…現職代議士3人が藤田執行部に反発し集団離党の「同床異夢」

  3. 8

    社民党参院議員ラサール石井氏に聞く 初の議員生活、芸能活動との両立、任期6年でやりたいこと

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    混迷の伊東市政…不信任の田久保市長が“論点ずらし”の議会解散→「悲劇のヒロイン」演出の悪あがき

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  3. 3

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  4. 4

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  5. 5

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  1. 6

    志村けんさん急逝から5年、更地になった豪邸の記憶…いしのようことの“逢瀬の日々”

  2. 7

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  3. 8

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  4. 9

    広陵野球部は“廃部”へ一直線…加害生徒が被害生徒側を名誉棄損で告訴の異常事態

  5. 10

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった