「i」西加奈子著

公開日: 更新日:

 アイはシリアで生まれ、生後間もなく父が米国人で母が日本人の夫婦の養子となり、小学6年生までニューヨークで育ち、その後日本へ移る。両親は共にリベラルで、アイが彼らとは血がつながっていないことを早くから教えていた。家は裕福で両親の深い愛情に包まれていたが、アイは幼い頃からこの恵まれた環境に感謝するより苦しみを覚えていた。世界には不幸な人間がたくさんいるのに、なぜ自分だけこんなに恵まれているのかと。

 確固たるアイデンティティーを持ち得ないことに不安を覚えていたアイは、高校の数学の授業で教師が発した「この世界にアイは存在しません」という言葉に衝撃を受ける。虚数iの説明だったのだが、自分の居場所のなさを突きつけられたと思い、以来、この言葉は彼女の胸の中に居座り続ける。あるシリア難民の子どもの写真を見るまでは……。

 世界の苦しみという抱えきれない重さを幼い頃から背負ってしまったアイは、もがきながらも最後にある地点へたどり着く。そこへ至る凄絶な過程には、誰しも心を揺さぶられるに違いない。(ポプラ社 1500円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する