40年前の官僚主義と監視社会の暴力が現代に迫る

公開日: 更新日:

「ポーランド暗黒SF〈文明の終焉4部作〉」

 SFが「サイエンス・フィクション」(空想科学小説)や「スペース・ファンタジー」(宇宙活劇)の略だったのは昔の話。いまではもっぱら異世界や架空の歴史を疑似現実として描く「シミュレーテッド・フィクション」ではないだろうか。それも悪夢にまみれたディストピアを描く特異なジャンルだ。

 公開中の「ポーランド暗黒SF〈文明の終焉4部作〉」はその先駆的見本。1970年代から80年代に多数製作されながら、検閲の憂き目で国外ではほぼ未知の存在だったピョトル・シュルキン監督の回顧上映企画である。

 演目は「ゴーレム」(79年)、「宇宙戦争 次の世紀」(81年)、「オビ・オバ 文明の終わり」(85年)、「ガガ 英雄たちに栄光あれ」(86年)の4作。

 アメリカでは「スター・ウォーズ」の旧3部作と同時代だが、活劇要素は皆無。「ブレードランナー」のような廃虚美とも違う閉塞感が、核戦争や宇宙人侵略後の世を舞台にスクリーンを覆い尽くす。

 実はこの時期のポーランドは冷戦末期で共産党や政府の統制を受けない労働ストが頻発し、共産圏では最も早く自由への内圧が高まっていた。明らかに全体主義を揶揄したシュルキンが次々に監督作をものし得たのもこの世情あってのことだろう。だが、40年以上経ったいま見ると、単なる共産党全体主義批判という以上に、官僚主義と監視社会の冷たい暴力が有無をいわさず迫ってくる。

「宇宙戦争 次の世紀」に見る秘密警察のふるまいなど、トランプ第2期政権下の移民・関税執行局(ICE)の暴力行為とそっくりなのだ。

 伊東孝之・井内敏夫編「ポーランド・バルト史下巻」(山川出版社 1760円)は90年代末に出た教科書的概説の再編集版。事実経緯が淡々と列記されたそっけないテキストだが、それだけに時代背景を知るには手ごろ。 〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「墓じまい」に悩むシニア 費用や遺骨の始末より問題になる「家族の愛憎問題」

  2. 2

    馬場典子アナの「人生の転機」は日テレ入社7年目“福澤一座”の旗揚げ公演の初舞台

  3. 3

    長崎でも高市首相はスカスカ挨拶…戦争責任「反省なんかしておりません」95年の発言がSNSで猛拡散

  4. 4

    八王子実践・河本ロバート監督「ライブや家族旅行も、事前に相談があれば休ませます」

  5. 5

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  1. 6

    ヤクルト「早すぎた続投宣言」の代償…池山監督の来季続投決定後に泥沼、投手陣も崩壊

  2. 7

    国害SNSを告発 森山裕・自民党前幹事長「高市おろし」キーマンに急浮上の裏…不快感に国境なし

  3. 8

    中居正広氏が熊本地震被災地を支援と報道 引退後も変わらないチャリティー精神と芸能界復帰の可能性

  4. 9

    高市早苗がナチス礼賛本に推薦文…「♪盟友ナチス♪」の高須克弥を持ち上げた安倍晋三にも共通する体質

  5. 10

    巨人ドラ1候補に花巻東・古城大翔が急浮上! 父はG戦士「振り向けば古城」、岡本和真の後釜育成急務