著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「南風吹く」森谷明子著

公開日: 更新日:

 俳句甲子園は、高校生を対象にした俳句コンクールで1998年に始まった。地方大会を勝ち抜いた36チームが集まり、毎年8月に松山市で行われるが、第20回の今年は8月19日から2日間にわたって開かれた。その競技方法は、句の優劣はもちろんだが、相手チームの句に対する鑑賞力も対象になるというのが興味深い。

 この実在のコンクールについては、小説やマンガ、映画などがこれまでにも発表されてきたが、本書もそういう一冊である。2年前に「春や春」という作品を森谷明子は発表しているが、本書はその続編。とはいっても、やや異色の続編である。というのは、前作「春や春」と同じ年の俳句甲子園を舞台にしているのだ。

 前作では、藤ヶ丘女子高校俳句同好会の面々が主役となったが、その同じ大会に出場した愛媛県立越智高等学校五木分校の5人が今度は主役となる。つまりその年の全国大会でどの高校が1位になったのかを私たちはすでに知っている。2位も3位も。しかしそれでも面白いのは、たしかに勝ちを争うゲームではあるけれど、それだけではないという俳句甲子園の本質のためだろう。

 すなわち、俳句の楽しさがここにはあふれているのだ。ディテールが素晴らしいこともあるが、俳句に親しんでこなかった者には、こういう楽しい世界があったのかという発見がある。ふと気がつくと、五・七・五のリズムを口ずさんでいるのである。(光文社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  4. 4

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  5. 5

    timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願

  1. 6

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  2. 7

    国民民主党“激ヤバ”女性議員ついに書類送検! 野党支持率でトップ返り咲きも玉木代表は苦悶

  3. 8

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  4. 9

    波瑠のゴールインだけじゃない? 年末年始スクープもしくは結婚発表が予想される大注目ビッグカップル7組総ざらい!

  5. 10

    アヤックス冨安健洋はJISSでのリハビリが奏功 「ガラスの下半身」返上し目指すはW杯優勝