著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 諸国の飢餓干ばつは凄まじく、政情不安の続く平安の世に、菅原道真をまつる社が出来ても不思議ではない。遠く太宰府で亡くなった不遇の右大臣の怨霊を鎮めなければもっと悪いことが起こる、となれば人々は大枚の金を積むようになるだろう。

 そう考える者が現れてもおかしくはない。いつの時代にも知恵者はいる。神の粗製乱造は風紀を乱すとして取り締まりが厳しいが、まつる対象が菅原道真では役人もおそれて近づくまい。

 というわけで菅原道真をまつる北野社がつくられるが、集まってくる人間たちの中には金儲け以外の動機もあったりするから、ややこしい。不遇の菅原一族の中に、亡き道真の神祭りに成功すれば浮かぶ世もある、と考える者もいるのである。ならば早く手をつけるにこしたことはない。と、一族内の争いが始まったりもする。

 あの北野天満宮がこんなふうに始まったのかと思うと、複雑な感慨がこみ上げるが、澤田瞳子のうまさは、そこに一人の巫女を絡ませることだ。それが本書のヒロイン、綾児だ。

 彼女は色を売って暮らす似非巫女である。面白おかしく毎日を過ごしていたが、こんな生活をいつまでも出来るわけがないと巫女仲間阿鳥に金儲けを持ちかけられる。それが菅原道真のご託宣をでっち上げるというもので、かくて人間たちの欲望の構図に彼女は巻き込まれていく。官能的な小説だ。澤田瞳子の傑作だ。

 (集英社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  3. 3

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  4. 4

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  5. 5

    やす子の毒舌芸またもや炎上のナゼ…「だからデビューできない」執拗な“イジり”に猪狩蒼弥のファン激怒

  1. 6

    羽鳥慎一アナが「好きな男性アナランキング2025」首位陥落で3位に…1強時代からピークアウトの業界評

  2. 7

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 8

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  4. 9

    渡部建「多目的トイレ不倫」謝罪会見から5年でも続く「許してもらえないキャラ」…脱皮のタイミングは佐々木希が握る

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」