「私のことならほっといて」田中兆子著

公開日: 更新日:

 3日前に心疾患で死んだ夫の葬儀を終えた「私」が帰宅すると、ベッドの上に夫の左脚があった。

 私は、この村に嫁いできてから、困ったことがあるといつもそうしてきたように、崖の下に暮らすおばさまに電話をかけて事情を話す。すると、おばさまの家にも61年前に亡くなった夫の右脚があるという。脚は若い未亡人がさみしくないようにという火葬屋の厚意らしい。ひとりで慰められるように、おばさまの夫の片脚にはあれがぶらさがっていたらしいが私のは脚だけだ。

 とりあえず脚は夫のベッドに寝かせたが、目を覚ますといつのまにか私のベッドに潜り込んでいた。(「片脚」)

 ほかにも、夢の中で出会った男との関係を保つため眠り続ける人妻を描いた表題作など、官能の香りが漂う短編集。

(新潮社 605円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    横綱・大の里まさかの千秋楽負傷休場に角界から非難の嵐…八角理事長は「遺憾」、舞の海氏も「私なら出場」

  3. 3

    2026年大学入試はどうなる? 注目は公立の長野大と福井県立大、私立は立教大学環境学部

  4. 4

    東山紀之「芸能界復帰」へカウントダウン着々…近影ショットを布石に、スマイル社社長業務の終了発表か

  5. 5

    「総理に失礼だ!」と小池都知事が大炎上…高市首相“45度お辞儀”に“5度の会釈”で対応したワケ

  1. 6

    大関取り安青錦の出世街道に立ちはだかる「体重のカベ」…幕内の平均体重より-10kg

  2. 7

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  3. 8

    義ノ富士が速攻相撲で横綱・大の里から金星! 学生相撲時代のライバルに送った痛烈メッセージ

  4. 9

    同じマンションで生活を…海老蔵&米倉涼子に復縁の可能性

  5. 10

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択