著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

古本あらえみし(宮城・仙台市)本棚ばかりか通路も押し入れも神棚だったところも本、本、本!

公開日: 更新日:

 ビルが林立する仙台駅東口の近くに、時間がふっと巻き戻る一角がある。その中、築約50年の民家が「古本あらえみし」だ。

 靴を脱いで上がる。2間続き、推定約30畳の空間がすごい。本棚ばかりか通路も押し入れも神棚だった所も本、本、本。合計5万冊超え、と見た。

「この欄の掲載、オシャレな店が多いのに、ウチでいいんですか?」

 と店主の土方正志さん。いいも何も、すてきすぎるワンダーランド空間です!

 写真集、ノンフィクション、ルポルタージュ、民俗学、文芸、幻想文学、SF、ミステリー。骨太本が揃いまくってる。ここはいつから?

作家・出版人でもある店主が2019年にオープン

「2019年の4月です。両親亡きあと北海道の実家を整理することになって、東京時代から送り続けた大量の蔵書を仙台に運んだのがきっかけでした」

 土方さんは、作家・出版人でもある。東京で15年間、ライター、編集者として写真集や社会派ドキュメンタリーを手がけた。民俗学者・赤坂憲雄氏に請われ、仙台へ。「別冊東北学」などの編集を担当し、05年に出版社の荒蝦夷を設立。「仙台学」や「叢書東北の声」シリーズを刊行。加えて「震災編集者」など自著も多数ある。

「仙台へは5年間のつもりで来て、その後成り行きで(笑)。実家から着いた本の山を見て、どうせなら、これを元手に店を開こうと」

 老舗古書店の主に「長く出版人のあなたは本に詳しいから、大丈夫」と背中を押されたとも、出版との二足のわらじを履いているが、コロナ禍の出版の落ち込みを古本が支えたとも。

 今の在庫は、取材などで知り合った大学人や郷土史家らから頼まれて、買い取ったものも多いのだそう。で、「本ってこんなに売れるんだ、という実感あります」。

 土方さんの編集本が並ぶ棚から関野吉晴・長倉洋海「幸福論」、本橋成一「上野駅の幕間」を、その向こうの棚から開高健「言葉の落葉」、はたまた佐藤春夫・芹沢銈介「極楽から来た」、かんべむさし「言語破壊官」を。次々と手に取る、楽しい取材となった。

「遺品整理も頼まれ、相続人にとって故人の蔵書の整理が大変なことも少なくないと。本の最後を看取るのも、古本屋の仕事だと思うようになりました」

 8月8、9日、「古本あらえみし」は高円寺の西部古書会館で行われる古本市「ヴィンテージブックラボ」に出展。土方さんもやって来る。

◆仙台市宮城野区榴岡4-7-12/JR東北新幹線・東北本線など仙台駅東口から徒歩5分/℡022.298.8455/正午~午後7時、水曜休み

ウチの推し本

「渚にてあの日からの〈みちのく怪談〉」黒木あるじほか著

「『遠野物語』に、明治の津波で奥さんが流され、子供と生き残った男の話があります。小屋のようなものを建てて暮らしていたら、1年後にその奥さんの亡霊が現れるという。2011年の津波の後にも、そうした話がたくさん生まれ、東北各地で語られるようになっていたんです。東北在住の怪談作家たちが、実際に体験した人たちから採話したりしていたので、記録するために作った一冊です」

 全国主要書店でも発売。

(荒蝦夷刊 2530円)

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