著者のコラム一覧
本橋信宏作家

1956年、埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。バブル焼け跡派と自称。執筆はノンフィクション・小説・エッセー・評論まで幅広い。2019年、「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)が、山田孝之主演でNetflixで映像化配信され大きな話題に。最新刊に、「東京降りたことのない駅」(大洋図書)、「全裸編集部」(双葉社)などがある

消え入りそうな声でしのぶは「わたし…仕事が…したい」

公開日: 更新日:

 まだ意識があった。

 スキルス性胃がんは無慈悲にも23歳という若さの堀江しのぶを地上から奪い去ろうとしていた。

 いままで世話になった野田の顔を見て、彼女はかすかに笑みを浮かべた。野田には抱っこしてあげることしかできなかった。堀江しのぶが消え入りそうな声で言った。

「社長……」

「うん、うん」

「わたし……仕事が……したい」

 軽くなったしのぶを抱っこしながら、野田は慈しみを込めて言った。

「うん、仕事しよう」

 返事はなかった。

 野田の記憶はその後、消えている。

 1988年9月13日午前4時28分、スキルス性胃がんのため死去。戒名は「麗光貞忍大姉」。

 コン……コン……コン。

 野田の記憶がよみがえったのは、堀江しのぶが納まった棺の蓋を打っているところからだった。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  2. 2

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  3. 3

    選挙3連敗でも「#辞めるな」拡大…石破政権に自民党9月人事&内閣改造で政権延命のウルトラC

  4. 4

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  5. 5

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  1. 6

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた

  2. 7

    「デビルマン」(全4巻)永井豪作

  3. 8

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  4. 9

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  5. 10

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学